先週末は所属するキノコの会の勉強会に出席し、主にイグチ目のキノコについて様々な知見を得ることができた。
イグチ目は菌根菌で栽培が困難なため一般的な知名度は低いが、ハナイグチやヤマドリタケ(ポルチーニ)など食用種が多く、キノコ狩りをする人にとっては極めてポピュラーなキノコ群である。
勉強会で知ったことの中で驚いたのが、「長野県ではドクヤマドリを食べる人が少なからずいる」という話だ。
ドクヤマドリは、かつて日本で漫然と信じられていた「イグチに毒茸なし」なる迷信を打ち破り、その強毒によってセンセーショナルに知名度を上げた大型の毒キノコである。
しかし長野県人に言わせると、ドクヤマドリの毒は水溶性であるため、薄くスライスして茹でこぼせば、2切れくらいまでなら食べても大丈夫なのだという。
確かに美味な種の多いイグチ目イグチ科のなかにあって、毒さえなければとても美味しそうなドクヤマドリを食べたくなる気持ちも分からないでもないが、そこまでして食べようとするとはさすが信州人だな…とややあきれ気味に感心した。
しかしよく考えてみると、自分も彼らのことを悪く言えない程度に食い意地が張っており、イグチ科のキノコで痛い目にあったこともある。
それはなかなかに強烈な体験だった。
毒イグチに中るマヌケはそうそういないとは思うが、同じように食い意地の張った読者諸兄のために、そして自分が同じ轍を踏まないように、その時の思い出をここにまとめてみることにする。
ヤマドリタケモドキ“ダマシ”
10年以上前、まだ僕が高校生だった8月のある日、高尾山周辺の山にキノコ狩りに行っていた時のこと。
狙いは夏の食用キノコ、タマゴタケとヤマドリタケモドキだ。
採取禁止ゾーンから少し外れ、斜面の獣道を進んでいくと、大柄のふかふかした傘を持つ、地味な色の立派なキノコが見つかった。
イグチ科特有の傘の裏の管孔もあり、非常においしそうな見た目も合わさって、当時の自分は「これはヤマドリタケモドキだろう」と思い込んだ。
もちろん「もし違うキノコだったらどうしよう?」という考えも頭にあった。
しかし当時よく知られていた毒イグチはドクヤマドリくらいしか無く、それが高山の針葉樹林にしか発生しないことは知っていたので、毒キノコの可能性をシンプルに排除してしまった。
「まあ、図鑑でいうところの『不食』のキノコでも、まずくてがっかりする程度だろう」という甘すぎる見通しのもと、大きくて身の締まったものをいくつか採取し、タマゴタケとともに持ち帰ってきた。
残念、それはニガイグチです
自宅に戻り、スライスしてタマゴタケと一緒に簡単なバターソテーにして見た。
加熱すると、緑がかったグレーの汁が出て食欲がややそがれたが、おいしそうな香りがしていたので深くは気にしなかった。
皿に盛り、両親に振る舞おうとしたのだが、憧れのヤマドリタケモドキ、お先に味見してやろうと思い、一切れつまんで口に入れてみた。
(TЖT)ブフゥッ!
苦いっッッ!
口の中から食道、胃に至るまで瞬時に締まるような激烈な苦みが広がり、意識よりも早く反射神経が口の中のキノコを吐き出させた。
そう、このキノコはヤマドリタケモドキではなく、ニガイグチだったのだ。
当時の写真が残っていないので記憶をたどるしかないのだが、高尾山周辺に多く生え、汚れた緑色を呈するニガイグチということで「オリーブニガイグチ」かその近縁種のニガイグチモドキだと思われる。
ニガイグチモドキは「不食」?それとも「毒」?
ニガイグチモドキは多くのキノコ図鑑に掲載されており「毒はないが、苦くて食べられない」不食種であると書かれていることが多い。
しかし、口をよくゆすいで牛乳を飲み、少し休んでからシャワーを浴びようと風呂に入った瞬間、まさにマーライオンのごとく胃の中のすべてを吐き戻してしまった。
/⌒ヽフ
/ rノ
OO_);゚。o;,おろろろろrrrr
吐き気がないのに吐いたのはその時が最初で最後の経験である。
考えられるのは
1.毒はないがあまりの苦みに体が拒絶反応を起こした
2.実は毒だった
のどちらかであるが、口にしてから嘔吐するまでに30分ほどのラグがあったので、やはり毒成分があったのではないかと考えている。
それにしたって、例えば死者が出るレベルの猛毒キノコであるニガクリタケであっても、齧って苦みを確かめることはよくあることだし、吐き出せば中毒になることはない。
齧っただけでこれほどに強烈に症状が出るというのは、実は非常に強い毒性を持っているのではないかと考えてもおかしくはない。
イグチに毒茸多し
当時、僕は両親から「食べるためのキノコ狩り」を解禁されたばかりで(子どものときは採取しても帰りにすべて捨てていた)気がはやっており、対してキノコに対する知識はまだまだ甘く、特にイグチ科のキノコに対する実地体験は圧倒的に不足していた。
ヤマドリタケモドキは柄に独特の網目模様があり、それさえ覚えておけば基本的には安全だとされている(実際は近似種が多すぎてどうかな…と思うが)。
その程度の知識もなくイグチ採取に行くというのは危険すぎて笑い話にもならない。
研究が進み、イグチ科のキノコにも猛毒のものがいくつか確認されるようになった。
重大事故につながらなかったことは本当に幸運だった。
野食ニストなら自然毒をリスペクトしよう
毒キノコに当たるという体験は強烈なもので、例えその毒が弱く、命には何ら影響がないものだとしても、非常に恐ろしく、また印象深いものとしてその後の野食人生に大きな影響をもたらした。
図鑑は絶対ではないし、毒成分が検出されていない限りは、その食毒についての記述が正しいかは、すべからく担保されていないと思うべきだ。
リスクを負うのは食べた自分だけなのだから。
僕のバイブル「検索入門 キノコ図鑑」(保育社刊)にも「キノコの毒を試さないようにする」とあるが、「大した毒じゃないでしょ」という考え方はやっぱり危険なのだ。
野食をたしなむなら、たとえ弱毒でも甘く見てはならないということを深く実感することとなった。
実はニガイグチ以外にも、何度か危ない目に合っているものがある。
今週はそのあたりをテーマにいくつか書きたいと思う。
コメント
なかなか面白いね。私の住んでるフィリピンの田舎でも原住民は、昔はいろんな物を食べていた見たいよ。 今は商業的に流通している食品に頼るようになって来ているらしい。昔はカブトムシの幼虫でヤシ酒を飲んでたのが1ペソの袋入りのピーナツを合成ブランデーのツマミにするみたいな。
とにかく毒死しないように気を付けながら楽しんでください。
初めまして、いつも楽しく読ませていただいております。
私は今年大阪から東京に越してきました、アシタカというものです。
学生のころから魚・キノコなど自身で採取しながら楽しんでおり、
この野食ハンマープライスは非常に刺激が強く、かつとても参考になります。
先日家族で狭山丘陵に行く機会があり、そこでキアミアシイグチを取ったのですが、
ふと思う事があり、家に持ち帰り数回茹でこぼしたのちオリーブオイルで焼いて食べてみました。生で齧ったときは非常に苦く、山渓の日本のきのこにも苦いと記載されている通りでしたが、上記方法で食べたところ苦みは緩和され美味しくいただくことができました。
学生の頃、キイロイグチを食べたときも同じ方法で食べたこともあり、少しうれしかったです。
この時期、そこまでしてわざわざ苦いイグチを食べなくてもというのはありますが、少しの苦みは旨味となる気もしており、良い経験ができたと思っております。
もし、今後機会あれば【苦いイグチの食べ比べ】など検証いただけますと、今後のキノコライフの参考になり、とてもうれしいと勝手に考えていますがいかがでしょうか。
今後も素敵なお話期待しております。
リクエストありがとうございます!
苦いイグチの食べ比べかぁ……確かに、ニガイグチ類以外でも、苦みのあるイグチはたくさんありますもんね。
とはいえ自分はどうしてもニガイグチの悪夢が頭をよぎってしまうので、正当に評価することはできないと思います(;´∀`)すみません。。
ドクヤマドリは風情がニュートラルすぎて困りますね
マツオウジ・キンチャヤマイグチ・ヌメリイグチ・ハナイグチ・アミタケ
そういう種類に似ています
間違えないけれど、アカヤマドリにも似ています。
イロガワリ系が一番似ていて、ドクヤマドリは「少し、青変する」
イロガワリは「強烈に青変し」上に羅列したキノコ群は「色が変わらない」・・
ミカワアミアシイグチとかいうモエギアミアシイグチとかいうキノコによく似た
毒菌があるそうな・・・
どうにも調べがつかない種は・・自分は少し食べます。
この前持って帰った「シロハツモドキ」・・正直同定できてるか自信はないけど
やっぱ白いのはだめだって思った どんだけ調べてもわからなかったけど
口の中で辛く、舌が痺れたよ