先日のキノコ狩りでは結果としてマツタケが採れて大勝利してしまったのですが、実はメインターゲットはマツタケではなく
ベニテングタケでした。
毒キノコとして名高いベニテングタケですが、長野県の一部では毒抜きをして食されることが知られています。そこまでして食べるほどに美味しいキノコなのか……と、興味を持ってはいたのですが、一方で「大した味じゃない」というレポートも少なからずあったことから、これまでは見つけても手を出さずにおりました。
まあ、キノコの毒抜きって「茹でこぼし+塩漬け」が一般的なので、毒成分こそ流出させられるかもしれませんが、ついでに旨味や香りもすべて流出してしまうと考えるのが自然でしょう。食べ物が少なかった時代ならいざ知らず、美味いキノコがいくらでも手に入る現代、そこまでして食べる必要はないのではないか……
そう考えていました。
しかし、前の週に一緒にキノコ狩りに行ったMさんから届いたメッセージを見て、その思いは変わりました。
「タマゴタケなんか採ってる場合じゃない」ときたよ……もちろん、中毒もしなかったそうです。
ベニテングタケ、ひょっとして地域によって毒性に差があったりするのでしょうか。もし毒性がなかったとしたら……ベニテングタケが含有しているイボテン酸は、昆布の旨味として知られるグルタミン酸の10倍もの旨味を持つといいます。抜群に旨味を楽しめるに違いありません。
そんなんやっていくしかないやんけ……
というわけであくる週、ぼくの手元には見事なベニテングタケがあったのでした。
ベニテングタケを毒抜きせずに食べてみた
ベニテングタケは多くの場合シラカバと菌根を作るので、関東では1000m程度以上の標高で見られます。しかし亜高山帯においてはモミ類とも菌根を作るようで、そういう菌の子実体は黄色みが強く、また柄が太く大型になります。
下処理をしたものを、近縁種で人気の食用キノコ、タマゴタケと比較してみましょう。
ベニテングタケの同定のポイントと「思われている」かさの表面の白いイボですが、非常に脱落しやすく、雨が降ったり、そもそも発生時に地表に触れただけでとれてなくなってしまうことがあります。基本的にはこのイボの有無ではなく、ひだと柄の色で判別するようにしてください。タマゴタケは鮮やかな黄色、ベニテングタケは純白です。
ベニテングタケ、Mの字さんはバターソテーで食べたとのこと。ぼくもそうしようかと思いましたが、たまたまバターを切らしていたのでオリーブオイルでソテーしてみました。
味付けは塩コショウのみ。。
いただきまーす
……Σ(`・〰・´*)
こ、これは……旨味がッ! べっちょりしてるー!!?
キノコをはじめ、旨味の強い食材を食べたときの表現として「こっくりとした強い旨味」という表現がありますが(キノコクラスタにしか通じない?)このベニテングタケはそれを超えて「べっちょり」という表現が近いです。
舌全体に旨味成分が貼りつき、膜を作って味蕾を麻痺させ、ひたすら旨味の感覚を脳みそに流し込まれるようなイメージです。
……あ、でも後味ちょっといがらっぽいかな。生のショウガを齧ったときの、鼻と喉の奥がひりっとするような辛みがありますね。
これはちょっと気になるかも。
そのまま炭焼きにもしてみました。
うん、タマゴタケの旨味と食感を強くしたような感じで、これも美味しい……けど、後味のいがらっぽさはより強い。
タマゴタケ同様、バターなど油脂を使って調理した方が美味しいキノコと言えるでしょう。天ぷらとかも美味しいんだろうなきっと。
そして中毒した
試食はとりあえず小サイズ(12㎝ほどの幼菌)2本にとどめて、様子を見てみることにしました。もし仮に中毒したならば、おそらくは30分以内には症状が出てくるはず。
それ以上待ってみて問題がなければ、天ぷら等次のメニューの試食に進もうと思っていたのですが……
15分ほど経ったところで突然、大量の汗が出てきました。キッチンが高温だからか……とも思いましたが、それにしても滴るほど出るのは不自然。
ベニテングタケは少量ですがムスカリンという毒成分が含まれており、それによるものかもしれません。
とここで、やおら悪寒がしてきて、さらに胃がキュッと締めあげられるような感覚が。
あ、ダメだこれ。中毒してるわやっぱり。
前述のイボテン酸ですが、強力な旨味成分であると同時に、メインの毒成分のひとつでもあります。その中毒症状は嘔吐、下痢等の消化器官のトラブル。まさに教科書通りです。
ここで試食の継続を諦め、トイレでおえーっとすることにします。ぼくの尊敬する南方熊楠先生は人間ながらに反芻ができたことで知られていますが、なにげにぼくもできたりします。
吐け、吐いちまえ、吐けば楽になるぞ(物理的に)
お茶を飲みながら数回吐き戻すと、一気に症状が軽減し、楽になりました。
うん、よかった。もう少し時間がたっていたら、今度はお腹の方の症状も出ていたことでしょう。
宮の字Mさんに「中毒したよ~」とフィードバックすると「申し訳ない」と謝られましたが、もちろん悪いのは100%ぼく自身です。中毒するつもりはなかったのですが、毒の感受性というものには当然個人差はあります。事故を防ぐためには、毒きのこ図鑑に収録されているキノコについては、やはり基本は手を出さないようにするのが無難と言えるでしょう。
そういえば、ベニテングタケはマジックマッシュルーム同様、幻覚成分(イボテン酸ならびにムッシモール)を持つことでも知られています。試したことがある人の話では「うまくいけば酩酊状態になり気分がよくなる」とのことでしたが、今回のような嘔吐、下痢を伴う「バッドトリップ」に陥ることも多く、MMとしての効用はあまり期待されないそうです。
まあ、フツーにめちゃめちゃ気分悪くてつらかったしねぇ……今後また試すということはないでしょう……たぶん。
※注:長野県等ベニテングタケを食べる文化がある地域では、季節による毒性の強弱や、中毒しづらい摂取方法などの知見が豊富にあるものと思われます。今回の体験をもって「ベニテングタケは食べるべきじゃない」と断ずるつもりは毛頭ありませんので、そこのところどうぞよろしくお願いします。。
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コメント
おお!とうとう…御身体お大事に。
なにやってんすかwwww
肝臓に悪いけど旨いらしいと、食べたがっていた人たちには素晴らしい実験結果ですね。お帰りなさいませ。
[…] 毒とわかってて味見する阿保もいるぐらいだしな… https://www.outdoorfoodgathering.jp/ediblemashroom/beniten/ […]
毒だとわかってて食べるとは…
すごい、
生きててください
ベニテングタケの主な毒性分であるムッシモールとイボテン酸は、茹でこぼすことによって沸騰水に溶け出るらしく、こうすることによって消化器系の毒症状は出なくなるようです。シャグマアミガサタケと同じですね。
ただし、微量含まれるアマトキシン類は、茹でこぼしてもほとんど溶け出ないようですので、多少肝臓がダメージを受けるのは変わらず、毒キノコには変わりないようです。
これ紅天狗じゃないぞw毒天狗たけやんw
色が薄いのが特徴
紅よら毒性が強い(紅と同じ種類の毒)
黄色身の強い天狗茸系統はタマゴタケモドキとかタマゴテングタケに限らず猛毒リスク高いと思うから怖くて無理だな
20年以上前の学生時代、大学構内に生えてました。興味を持つ友人たちと試食。半分程のメンバーが「めちゃくちゃ美味い!」と喜ぶ一方、私を含む残りメンバーは「そうか?」。「もう少し食べたらわかるかな」と食べていたら、中毒・嘔吐の流れで終了。
その後も別の機会に異なる調理法で数回試食しましたが、私には美味さが感じられませんでした。現時点では、ベニテンのアミノ酸を旨味として感じ取れる人とそうでない人がいるのではないか、との仮説です。
長野で塩漬け食べてる地域では1日の摂取量を1本以内にしていると何かで読んだような。。。