世の中には「サイコパス料理」とでも呼べそうなジャンルの料理がいくつも存在します。たとえば「豚をひき肉にして豚の腸に詰める」とか、「卵で鶏肉を煮て食べる」とか。いずれも文字面を見るとなかなか大したものです。
ぼくは「美味しけりゃいいじゃん、どうせ死んでるんだし」くらいの感覚なのですが、ユダヤ教徒のようにこういう料理を許せない人たちもいないわけではないです。
で、そんな料理の中でも、個人的に「こりゃサイコパス度たけぇな」という料理がいくつかあるのですが、その筆頭とも呼べるものが「イワシ明太」です。
これは福岡の郷土料理で、頭と内臓をとったイワシのおなかに明太子を詰めて、焼いて食べるというもの。しょっぱさと辛さ、イワシの脂と明太のうま味が絡み合ってえも言われぬ絶品なのですが、イワシの体内にタラの子を詰めるってなかなかパンチ効いてると思うんですよね。まあ美味いからいいんだけどさ。
しかし最近、このイワシ明太のパンチ力をさらに上回ってくるものに出会いました。
ニシンと数の子の「いいとこどり」
それがこの「索餌ニシンの子持ち丸干し」。
先日、コメント欄で「本物の数の子」について教えてくださったKaitoさんが「ブログネタになりそうなので」と送ってくれたものです。
45㎝程もある巨大なニシンに、超特大サイズの数の子がみっちりと詰め込まれています。大変美味しそう。
しかし、魚に詳しい人ならこの時点で違和感に気づくはず。
「『子持ち』の『索餌ニシン』……!?」
索餌ニシンとは読んで字のごとく、餌を探すニシンです。プランクトンを飽食した索餌ニシンは脂肪の乗りがとてもよく、とくにロシア沖のオリュートル岬周辺で秋から冬に獲れるそれは体脂肪率20%に迫るという逸材だそうです。
一方で「子持ち」は文字通り抱卵しているわけですが、抱卵個体というのはどんな魚でも脂肪の乗りは悪くなります。おなかの中にパンパンに卵が詰まっていれば餌も摂れなくなるし、栄養も奪われるのだから当然。
ではなぜこれらが両立しているのか。その答えはパッケージの裏側に書いてありました。
ニシンはロシア産、数の子はアメリカ産。これはなにも冷戦で泣き別れたとかダイオミード諸島で採れたという話ではなく、つまりアメリカで採れたニシンから取り出した数の子をロシアのニシンの腹に詰めたというものなのです。すごい、ルーズベルトとスターリンに「平和の象徴」をお願いしたらこれ出してきそう。
まあニシンにイデオロギーは必要ないし、大事なのは味です。食べてみましょう。
デカすぎるのでグリルにそのまま入れることができず、ぶつ切りにします。
ものすごい脂の量、そして数の子のなんという厚み。ツァーリボンバとB41の共演という感じがします。
焼いているとグリルの中で何度も火事が起こりました。バラムツを焼いた時を思い出しますね……
焼き上がり。
いただきまーす
……(≧Д≦)ウメェ……!
まずね、ニシンがめちゃめちゃうまいですね。世界で最も脂がのるとされるオリュートルのニシン、ほろほろとした身とジューシーすぎる脂に心地よい青魚の香りがたまらないです。何より塩加減がベストオブベスト! 食べてると全身にDHAとEPAが充填されて行く感じがします。
そしてその脂の絡んだ数の子がね……また美味いんだ。
火の通った数の子というのは、パリパリとホクホクの中間的な味わいでほかにはない質感ですね。味はちょっと軽めなので、身と一緒に食べると美味いです。アメリカとロシアを一口でいただきましょう。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
最高の味を追い求めていった結果パンチの効いたものができる、日本人はやりがちです。
これは決して命への冒涜ではなく、最高に美味いものを食べることで自然に湧きあがる命への感謝を呼び起こすプロの仕事なのです。圧倒的感謝っ……!!
Kaitoさんありがとうございました。また面白い・美味しいものがあれば教えてください!
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