瀬戸内海は内湾で水深は浅く、冬は海水温が下がりやすい傾向にある。
また「鳴門の渦潮」で知られるとおり全域で海流が早く、海底のプランクトンが巻き上げられることで栄養が豊富になる。
これらの要因により、瀬戸内海の魚は脂がのりながらも身が締まっているという素晴らしい状態になる。
例えばベラの仲間が瀬戸内周辺でしか珍重されないのも、その特徴である身の水っぽさが瀬戸内海では緩和されるからだと言われている。
あまり大きくならない魚ほどその影響は顕著に出るのかもしれない。
その中でも今回食べたとある魚は、その恩恵を最大限に受けたような味わいだった。
瀬戸内のお昼を賑やかにする「たもり」
豊栄水産から魚を送っていただくにあたり、最初に翔さんからおすすめされたのが「たもり」だった。
標準和名はセトダイ、まんま「瀬戸内のタイ型の魚」という意味であるようだ。
なぜこの魚が「たもり」と呼ばれているのかというと、もともとは「とももり」であったようなのだ。
とももりとは平家の頭領、平清盛の四男である平知盛のことである。
瀬戸内海の覇権を握っていた平家の総大将で、源平合戦にて敗走し壇ノ浦に沈んだ彼は、瀬戸内においてはなじみ深い存在であるらしい。
実はセトダイに限らず、イサキ科の魚のうちヒゲダイ属、コショウダイ属、コロダイ属の背鰭が大きな魚はすべて「たもり」と呼ばれることがある。
この大きな背鰭を、鎧を着た武士に例えたのだという。
武士と言えば知盛、というのがローカルでユニークだ。
ちなみに瀬戸内では、ミノカサゴのことを「きよもり」と呼ぶことがある。
これは派手な背鰭に毒刺を隠し持つミノカサゴを、派手な法衣の下に武器を隠し持つ平清盛に例えたものだという。
いずれとも平家なのがおもしろい。
ちなみにセトダイは「びんぐし」と呼ばれることも多いようだ。
びんぐしは鬢櫛、整髪料を付けた髪をかきあげるのに使われる目の粗い櫛のことで、これの方が例えとしてはわかりやすい。
他に、やっぱりいっしょくたに「こしょう鯛」とされてしまうこともある。
セトダイは大きくなっても25㎝までの「小魚」で、値段も他のイサキ科と比べると安く、けっして高級魚ではない。
むしろ漁師の自家用であったり、安い惣菜魚として当地では扱われていた。
ディナーのメインを張ることはなく、それよりはむしろ丸のままで塩焼きや煮付けなどになってご家庭の昼ご飯で主役を張る、そういったカンジの魚を想像していただくといいかもしれない。
小さくても味はバツグン
今回送ってもらったセトダイは、岡山中央卸売市場に活けで入荷したものを、翔さん手ずから締めて送ってくれたものだという。
持ってみてまず驚いたのがその固さ。
当然、活け締めでしっかり冷やされて送られてきたので身がカチカチにいかっているのだが、それ以上に皮や唇、盛り上がった背肉などすべてのパーツがぎっちりと固まっていて、まるで大きなヒゲソリダイをこのサイズまでギュギュッと凝縮したような印象を受けた。
釘が打てそう、という形容詞を魚に用いるのは生まれて初めてのことである。
ちょっととぼけたような眼と、ヒゲソリダイ程度に切りそろえた鬚がコケティッシュである。
鱗を落とし、内臓を抜いて3枚におろす。
身は非常に固く、まるで釣りたてのムラソイのように締まっているのに、しっとりと脂がのっている。
この時点で味の良さを確認できる。
まずは刺身に、
サク取りした身を一晩寝かし、半身は皮を引き、もう半身は焼き霜にして厚めのそぎ切りにしてみた。
(○~○*)!
やはりというべきか、非常に美味い。
寝かしたことで旨味が現れたのか、それでも固く締まった身を噛み締めると、口中にぶわっと甘さと脂が広がる。
焼き霜の方はそれに加えてゼラチン質のぷるぷるが強烈で、すべてが混然一体となって口の中にあふれかえる。
エンガワは期待したほどは取れなかったが、これもまた脂が強烈で絶品。
「小魚」であることが残念でならないが、この大きさだからこの味わいなので、大きくなればコロダイやコショウダイと同じような味になってしまうのだろう。(これらもとても美味しいのだけれど)
残りのうち2匹は、白だしを使って薄味の煮つけに。
背鰭の際の皮にピシッと切れ目が入り、見た目は完璧であるが…
(≧~≦*)ッッッ!
これはマジヤバい。美味すぎる!
コロダイやマダイのように、繊維質にほぐれる身を想像していたのだが、より細かく、ほろりと崩れるカンジだ。
その中から旨味と脂を含んだ粒がはじけるように飛び出してくるのだ。
そして一番のポイントはそのゼラチン質の多さ。
冷蔵庫で保存しておいた煮付けを、翌日取りだしてみると、ひっくり返しても全く皿から落ちてこない。
箸を使って無理やり剥がそうとすると、すべての煮汁までがべろりと剥がれ、きれいな皿が残った。
ウツボでもこうはならないような気がする…
このゼラチン質が醤油の風味と絡むと絶品なのだ。
煮付けにして一番美味い魚はカサゴだと思っていたのだが、現時点で暫定ではあるがこのセトダイにトップを譲りたいと思う。
惜しむらくはその大きさ…本当に、本当にサイズだけが残念である。
無い物ねだりをしても仕方ないのであるが…
全体的にカサゴよりも少し上、メバルに対しては明らかに上位互換、という味わいだった。
メヌケの類と比べるまでには至らないが、偏差値も相当高いと言っていい。
返す返すもサイズが小(ry)
関東に来てくれない「たもり」
このセトダイをはじめ、先日のヒゲソリダイやヒゲダイなど「たもり」は基本的には西日本の魚で、関東の市場にはなかなか登場してくれない。
ゼラチン質が多いので鮮度が落ちやすいのと、価格が安く、関東まで送っても元がとれにくいということがあるのだろう。
いまのところは、瀬戸内から直接送ってもらえないことにはこちらでは食べることができないのである。
今後、豊栄水産からの便には定期的に入っていてほしい、そう思わせるほどの味だった。
翔さん、小さくて御面倒でしょうがどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
コメント
すごく気にいったみたいですね笑
タモリはだいたいありますから送る時は入れときます‼︎
次回豊栄便をお楽しみに‼︎
ありがとうございます!
どうも僕の琴線に触れてしまったようですw
フツーに煮るだけでこんなに美味しくなるのは素晴らしいですよ!
関東でももっと売られるようになればいいのになぁ…
タモリ美味しいですね。
瀬戸内の人々は小ぶりの物をおいしいと好む傾向があるような。
「こまいのが美味いんじゃ!おおきいのは大味じゃけ!」
わたしも最近そう思うようになりました。