先日、岡山中央卸売市場の翔さんから、LINEで一本の動画が送られてきた。
見てみると、それは生け簀に泳いでいる魚の映像だったのだが、その魚はタイ型ではあるがやや寸詰まりで鰭が大きく目立ち、背中には不思議な鹿の子模様があった。
こ、これは…
…クロホシマンジュウダイ、ですか?
「さすがですね!入荷したんですけど、送りましょうか?」
是非とも!
しかし、南方系の魚と聞いていましたが、岡山でも入荷があるんですね。
「時々ありますね。じゃあ、締めて送っちゃうんで。今回は時化で入荷があまりないんで、これだけでも良いですか?良ければ1500円でいかがでしょう」
もちろん大丈夫です!
そんな少額で発送のお手間を取らせてしまってすみません…
しかし…
クロホシマンジュウダイは釣ったことはおろか、市場で見かけたことすらない、全く初見の魚である。
1500円ってのは非常に安く思えるけど、もし10cm位の小魚だったらどうしよう?
不安と期待がない交ぜのまま、到着を待った。
スベスベマンジュウガニとはあまり関係がない
おお、なんか期待した以上にデカい。
図鑑などでは25cm内外と書いてあったが、計ってみると全長は32cmほどもあった。
クロホシマンジュウダイはニザダイ亜目クロホシマンジュウダイ科の一科一属の魚で、南方系の魚であることや網に入ることがまれなため、関東の市場ではまず見かけない。
体型は前記の通り寸詰まりで、背中の筋肉が発達して隆起しており、体長の割に目方がある。
小顔で、特徴的な口をしている。
草食・プランクトン食をしている魚はこのようなへの字型の小さな口になることが多い。(ボラ、サバヒーなど)
この魚の学名Scatphagusは「糞食い」という意味なのだが、実際のところは藻類や小動物、飼育下では人工飼料などを食べているようだ。
ちなみにこの柄から熱帯魚としても需要があるそうだが、その場合は学名そのままに「スカットファーガス」と呼ぶらしい。
そうするとつまり「うちの『糞食い(直訳)』ちゃんが最近水槽に慣れてきてね~♪」みたいな会話がなされているのだろうか…
せめてクロホシとかまんじゅうとか呼んであげればいいのに。
クロホシマンジュウダイを調理する
さっそく調理に進もうと鱗を落としてみるが、1つ1つが非常に細かく、まるで紙やすりのようにざらざらしていて非常に落としづらい。
処理をあきらめ、皮ごと剥がしてしまう方向で進めることにした。
内臓はアイゴのそれで、いわゆる「ぜんまい」状に丸まった長い腸が巨大な腹腔に収まっている。
こいつを破ると大惨事になりかねないので、慎重に刃を進める。
背鰭が非常に鋭いので、手に刺さってしまわないよう細心の注意を払い進める。
クロホシマンジュウダイはニザダイ亜目なのだが、ニザダイよりもアイゴに近い存在とされており、背鰭や腹鰭のとげに弱毒を持つといわれている。
初めに切り落としてしまおうかとも考えたのだが、鰭の条が非常に固く、出刃もキッチンばさみも全く手が出なかった。
しかし、鰭の大きい魚は必ず
エンガワも大きい!
まるでヒラメやツバメウオのような、幅のある良質のエンガワが取れた。
これは期待できそうだ。
骨に沿って丁寧に包丁を進め、3枚おろしにし、サク取りして皮を引く。
皮下の脂がしっかりと層になってついており、撫でると手にぺっとりと付着する。
筋肉自体はカチカチに締まっており、1晩寝かせたものでも薄造りにするのに苦労はしなかった。
まずは、刺身で!
いただきマース
…(≧~≦)
うん、美味い!!
一番近いのは、地磯で釣れた1㎏位のイシダイだと思う。
身が締まっていて脂がのり、磯臭さまではいかない、さわやかでライトな磯の香りがする。
アイゴやニザダイと比べても、磯臭くなく食べやすい。
これはなかなかの味。
そして、ついに満を持してエンガワを実食!
…(;~;)
苦い。抜群に苦い。
後味でなく、口に入れてかみしめた瞬間に、胆嚢のような強烈な苦みが口の中を覆う。
脂ノリッノリで歯ごたえもいいのに、なんともったいない…
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
でも、こういう味と香りの魚は、間違いなく刺身よりも加熱調理が合う。
イシダイも、25㎝ほどのサイズを丸ごと塩焼きにしたものが一番美味しいと思う。
ということで、残りの半身は料理することにしたが、皮付きだとほんのわずかに磯臭さがあって塩焼きは危険な気がした。
そんな時には…マース煮が一番。
レシピは簡単、塩を振った身に泡盛をたっぷりかけ、水を入れて強火で焼くように煮て、煮切れればオーケー。
完成!
…(≧∀≦)
いやーこれは美味しいな!
マース煮にする魚は多少磯臭いぐらいの方が味があって美味しいものだが、クロホシマンジュウダイは皮付きだとそういう意味でちょうどいい。
また皮がゼラチン質に富み、ぷるぷるになると同時に煮汁にコクを与えている。
筋肉も適度に締まりながらしっとりとしており、苦みも全く感じられなくなった。
味:★★★★☆
価格:★★★★☆
このほか、照り焼きや、スパイスをかけてグリルにしても間違いなく美味しく食べられるだろう。
美味しいけどちょっと複雑
というわけで南の海の使者、クロホシマンジュウダイはイシダイの代用品になるんじゃないかというくらい美味しかった。
アイゴやニザダイよりずっと食べやすいし、あの体型を見る限りは釣りの対象魚にも良さそうなので、もっと身近な存在になればいいのになと思ったりもしたのだが、、
この魚が岡山の市場に入ってきたということは、瀬戸内海の温暖化が着々と進んでしまっているということに他ならない、ということに気付く。
入ってきちゃったものはどうしようもないので、今後も見かけたらどんどん買って食べてネットで紹介して、食用魚としてもっと認知されていくような努力をしていきたい。
未知の魚を美味しく食べることは、身近な自然の保護につながるかもしれないと思っている。
コメント
鹿児島では河口や汚い水路によくいます。
でかいのが釣れるんですけど、かなり臭そうなので食べてません。
意外と身近なんですね!でも確かに、水質によって味が相当変わりそうな魚でした。
きれいな川の河口なら、外海の磯に居る個体よりも磯臭くなくて美味しいかも?
こんばんはー。
へぇー、初めて見ました!!
磯物みたいだから「野締め」では臭くなるでしょうねぇ。
よく「活け」で置いておいてくれましたねー。
どこの産ですか?
瀬戸内海はきれいになりすぎて、魚が減っていると聞きます。
心配ですね。。
活けを締めてすぐに送ってくれるんで、どの魚もとても美味しいです!
今回のクロホシマンジュウダイは内臓も全然臭くなかったですね。。
「きれいになりすぎて」というのが意外ですね!確かに富栄養な海域の方が魚も多いと聞きますが…
この10年で3度目の入荷で過去最大のサイズでした。
僕のお客さんは強者揃いなのでみんなが欲しがりましたが、何としても野食ハンマープライスで紹介したかったので必死で死守致しました笑
ありがとうございます!
ここで紹介すれば、それなりの露出にはなると自負していますが…w
今後もどんどん宣伝させていただきますんで、またよろしくお願いします!
いっつも楽しんで見ていますが、コメントするのは初めてです。道産子の18歳です。
北海道には絶対居ない見た目ですねぇ。目がなんかいろいろ考えていそうです。
岡山には行ったことがあるけど見たことないです(笑)。以前紹介したノドグロは大好きですよ。
ところで「コンフリー」は食べたことがありますか?私はおひたしで食べましたが⋯。
よく似た偽物が生えているので要注意ですけど。灰汁強いですから注意です。
コメントありがとうございます!
確かに、この重たそうな二重瞼と何か言いたげな口は特徴的ですよね(笑)
僕も、この魚が岡山で売買されているのなんて、翔さんと知り合う前は全く考えもしなかったですw
コンフリーはそれっぽいものは野でよく見かけますが、図鑑などを見ると「ジギタリスに酷似」なんて書いてあってちょっと食指が伸びませんでした。まあ、ジギタリスがその辺に生えてたらそっちの方がよっぽど問題でしょうけど…