キノコの世界において「名は体をあらわす」という言葉は、こと見た目に関して言えば、当てはまらないことが多い。
有名なところでも、テングタケのどこが天狗なのか、ヤマブシタケのどこが山伏なのか、冷静に考えるとちっとも分からない。
(一目で理解できるのはタケリタケくらいか)
そんな連想ゲーム的名付けの中でも、最難関に位置するんじゃないかと思うのがニンギョウタケである。
なんでこの名前になったんだろう…?
このぬるっとした質感のクリームっぽい白色は、博多人形の肌を連想させなくもないけど、そのあたりが由来だろうか?
さてこのニンギョウタケ、「ニンギョウタケモドキ科」に属しており、何ともややこしい。
名前も含めて不明なところが多すぎる。
キノコ狩りの対象としては大きさ、収量ともにそこそこにはなるが、独特過ぎる匂いがどうにも苦手で僕はあまり採らなくなった。
謎の下剋上・ニンギョウタケモドキ
さて、このニンギョウタケが採れた山で先日、面白いキノコを見つけた。
敷き詰められた松葉の下に埋もれるように発生していたのは、科の基準種であるニンギョウタケモドキだ。
ニンギョウタケと比べると小さく、互いの傘が独立しており、黄色みが強く、傘に薄汚れたような模様がある。
多くの図鑑でもニンギョウタケやその他ニンギョウタケモドキ科のキノコたちの掲載はあるが、肝心のニンギョウタケモドキの掲載があるものは少ない。
ニンギョウタケと比べると発生もまれで、量も少なく、知名度もはるかに低いから「~モドキ」と名付けられたのだろうに、なぜこちらが科の基準種になったんだろう。
学者さんの考えることはよく分からない。
ニンギョウタケモドキ科、一族郎党食べてみた
まあよろしい。
僕が気にするべきは科名ではなく、味である。
ニンギョウタケモドキの食レポートはニンギョウタケと比べて非常に少ないが、おおむね好評のようすだ。
ニンギョウタケと比べると、独特の香りが少ないことが評価されているようだ。
さっそく食べてみることにしたのだが、せっかくなので先日同じ場所で採れた
アオロウジ
ならびにヌメリアイタケ
と比較してみることにしたい。
これらはすべてニンギョウタケモドキ科に属するのだが、同じ森ですべてが手に入るとは思ってもいなかった。
よほどこの科の発生に適した環境になっているのだろう。
今回は採取量が少なく、味そのものを比べたかったのもあって、シンプルにさっと茹でて食べてみることにした。
上から時計回りにアオロウジ、ヌメリアイタケそしてニンギョウタケモドキである。
すべて加熱により一回りほど小さくなってしまった。
水分が多いキノコであることは想像できた。
どれもこの時点で鼻につくような香りはない。
さっそく、アオロウジから食べてみる。
…。
先日食べたときと同じ感想だ。
ややクセのある匂いがあるが、歯応えよく苦みもあまりない。
濃いめの味付けにして美味しく食べられるだろう。
味:★★☆☆☆~★★★☆☆
価格:★★☆☆☆
続いてヌメリアイタケ。
こちらは匂いにクセはなく、歯応えはくにゅくにゅとしてまた独特である。
名前の通りヌメリもある。
味は意外にもシメジやヒラタケに近いが、奥の方にわずかな酸味と苦みを感じる。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
向いてる調理法は…酢の物だね。
あとはヌタとか、冷製で酢を使ったものがいいと思う。
最後に本命、ニンギョウタケモドキ。
こちらは歯応えはコリっとクニュっの中間でなかなか心地よい。
香りも一番爽快で、さわやかなキノコらしい香りがある。
そして味は…他の2種には感じられなかった旨味が!
これはニンギョウタケモドキの圧勝ですわ…と思った瞬間
Σ(*ρ*;)ブファ
強烈なエグ味のカウンターパンチ。
時間差を置いて来るくせに一気に口の中に広がり、飲み込めずに吐き出してしまった。
これはダメだわ…
味:★☆☆☆☆
価格:★☆☆☆☆
もしかすると高温加熱でなんとかなる類のものかもしれない。
その場合はこのキノコは天ぷら一択ということになるだろう。
歯応えや旨味は良いので、なにかこれを生かせる料理があるといいのだけれど…
全体的に、万人受けするキノコはないなぁという結論に。
まあでも、優等生キノコが食べたければ栽培品を買えばいいわけで、このクセとか強すぎる個性が天然キノコの魅力と言えばそうなのだ。
今後も折々で出会えたら嬉しいなぁと思う。
コメント
ヤマブシタケは髭から連想したものかと勝手に思ってましたよ。
仙人でもなんでもええやんとは思うけど。
カニノツメとかわかりやすいよね。
ニンギョウタケは洋人形がよくかぶってる帽子にちょっと似た感じのが多いですよね。
そもそもニンギョウが人形なのかどうかすら謎ですが。
カニノツメとかサンコタケとか、腹菌類はわかりやすいのが多くて好きです。。
和名っていうのはあんまり捻らずにつけたほうが後世の為にもなると思うのです。
確かヤマブシタケが何故山伏なのかは「山伏の服装の胸辺りに付いている丸っこいモコモコの物体『鈴懸』に似ているから」だったと思います。
いつも楽しく、興味深く拝見しています。さて『◯◯モドキ科』問題ですが。似た例が『ホタルイカモドキ科』の『ホタルイカ』などありますね。全ての例が当てはまるかは分かりませんが、恐らく『◯◯モドキ』の方が先に国外(欧米)の学者に発見されてラテン語の学名が付けられ、科の基準種になったのではないかと。モドキじゃない方は例えば日本固有種だったりで学界では知られず、学名も後からついて結果として『モドキ』の手下扱いになってしまったものと思われます。分かりにくいかも知れない長文で失礼致します。
約4年も前の記事ですが感謝を述べたくコメントします。
まずは、ありがとうございます、さっぱり分からなかったキノコの名前がようやく分かりました。
事の始まりは今年の6月、山菜取りの最中に見慣れないキノコを見つけました。
遠目からみると椎茸のような見た目、なんだろうと近づいて採ってみると裏が管孔。
頭の中は?でいっぱいになりました。なにせイグチの仲間以外で管孔のキノコなんて、知ってる中ではコウタケと他数えるくらいのもの。しかも傘が茶色なんてコウタケ以外しらない。けれどこいつはコウタケではない・・・。
とにかく気になって持ち帰り図鑑を読み漁ったものの、手持ちの図鑑からは有力な情報が得られず。ネットで調べてみてもさっぱり分かりませんでした。
調べる気力もなくし本日、なんとなしにネットサーフィンしていたところ、こちらの記事を見つけ、ようやくそれらしき情報が得られたところです。
それからいくつか調べ、恐らくセンニンタケ(ニンギョウタケモドキ科)かアミヒラタケかなと自分の中で結論を出せました。どちらかは断定できないものの、これだけ分かれば私的には万々歳です。
気になっていたものの謎が解け、ようやくすっきりしました。本当にありがとうございます。