腹菌類というジャンルがある。
どうも正式な学術用語ではないようなのだが、キノコのなかで「いわゆるキノコ型」をしていないものを指すことばとして、キノコ愛好家の間では広く用いられている。
さいきんはやりのキノコ雑貨・グッズでも、腹菌類をモチーフにしたものは多い。
確かに、キノコ型をしていない、一見キノコに見えないようなものたちには何か惹かれるものがある。
つつくと埃が出まくる石田純一みたいなキノコや、触れると胞子を弾き飛ばすものなど、傘があってひだを持って…という生き方を選択しなかった彼らなりの考え方やその生態には不思議な魅力がいっぱいだ。
陸に生えるカニはエイリアン風
先日、FBのコミュニティ「キノコ部」に、とある腹菌類の画像がアップされた。
都内某所の公園で突如大量発生したのはカニノツメというキノコ。
名前の由来は…
言うまでもないですな。
このキノコは、中華の食材やキノコグッズのモチーフとして名高いキヌガサタケを含むスッポンタケ科に所属している。
スッポンタケ科のキノコはどれも不思議な造形をしていて、頭の数の順に
1本…スッポンタケなど多数
2本…カニノツメ
3本…サンコタケ
サンコタケ google画像検索
10本…イカタケ、アカイカタケ
イカタケ google画像検索
かご型…カゴタケ、アカカゴタケ
カゴタケ google画像検索
など、どれも分かりやすい名前がついている。(三鈷とは真言密教で用いる道具のこと)
多くは夏から秋に出るが、この時期に発生するものもいくつかある。
カニノツメはその一つで、投稿に上がった公園だけでなく、自宅の近所の公園にもしっかり出ていてくれた。
ウッドチップが撒かれている場所ならどこにでも出る可能性がある。
さて、このキノコの造形に惹かれて、はるばる九州より友人が駆けつけてくれた。
おなじみ、ライターの友人Hさんである。
以前よりカニノツメを見てみたいと言っていた彼に連絡してみると、まさに二つ返事でこちらに来てくれることになった。
このフットワークの軽さが彼の魅力のひとつであることは間違いない。
2人で近所の発生地に向かうと
おお、ヤバいことになってる。
知らない人が見たら、何かよくないものが大量に繁殖してると思うかもしれない。
1ヶ所に固まった卵(幼菌)から次々と発生してくる様子はまさにエイリアン。
ひとつひとつはそれほど大きくなく、その形状や名前も可愛らしいのだが…
そして、これは予想していたことなのだが、近づくにつれてほのかに肥溜めのようなにほひが強くなってきた。
スッポンタケ科のキノコは「グレバ」と呼ばれる悪臭のする物質に胞子を含み、ハエを寄せて胞子を媒介させる。
それぞれの種によってちょっとずつ臭いが異なるのだが、カニノツメはくさやから、肉食動物の糞くらい強いものまでさまざまであった。
新鮮なものほどマイルドで、時間がたつにつれて強くなってくるようだ。
胞子の成熟度によって変わってくるのかもしれない。
立派に育ったものと、まだ卵状の幼菌をいくつか、ジップロックに入れて持ち帰ることにした。
その足で大学の先輩の結婚式に行ったのだが、披露宴の間中、悪臭が漏れていないか気を張る羽目となった。
カニノツメを調理する
持ち帰ってきたカニノツメ。
台所が伊豆大島・元町港フェリー乗り場の香りになった。(常にくさや焼いてるからね)
手早く調理せねばなるまい。
先に持ち帰り、調理をしていたHさんからあまりいい評価を聞かなかったので、ここはヘンに捏ね繰るよりも中国4000年の知恵にすがることにしよう。
つまり、キヌガサタケのそれに従うのだ。
まず、グレバを流水できれいに洗い流す。
触ると指先がう○こ臭くなるので敬遠したくなるが、この臭いは流水で比較的簡単に落ちるので、ダイナミックにつまんで洗っても大丈夫である。
洗い落としたグレバを改めて嗅いでみると、やや穏やかになったくさや臭の中に、長期熟成したピノ・ノワールのワインのような妖艶な香り、麝香臭、軟らかな土の香りといった複雑さを感じ取ることができた。
ただ単純に臭いのではなく、化学的に様々な匂いの要素を混合したような臭いのようだ。
きれいにしたもの。
ここで匂いを嗅ぐと、グレバはきれいに落ちたものの、やはり弱いアンモニア臭と酸味のある香りがする。
キヌガサタケや、その代用に用いられるスッポンタケも、生の時は同様の香りがする。
Hさんは採取時にそのままかじっていたが、この臭いではそれほど美味しいものではなかっただろう。
流水に晒すと、臭いはほとんど気にならなくなった。
ともかく奴らは水に弱い。
今後、本格的に地球侵略が開始されたときのために、ぜひ覚えておきたい。
カニノツメを食べてみた
これを、まずはシンプルに中華スープに入れてみた。
具材はカニノツメと鶏卵のみ。
…(・~・)
うん、シャリシャリして良いね。
味はほとんどなく、また歯ごたえも貧弱ではあるんだけど、スッポンタケ科独特のシャリシャリとした歯ごたえが感じられてユニークで面白い。
この仲間のキノコはどれも発生から数時間で生育しきってしまうのだが、そのために柄の組織が網状になっており、それがこの独特の食感を生む。
対した味もなく、ボリュームも出ないキヌガサタケが中華食材として珍重されるのにはこのようなわけがある。
サイズがかなり違うのでそれほど期待はしていなかったのだが、やはりカニノツメも同じような味がすることが分かった。
読みが当たって大変うれしい。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
中華のエッセンスとカニノツメはとても良く合うようだ。
とろみをつけたスープがこの網目構造にとてもよく絡み、美味しい。
鮮やかなオレンジ色で、存在感があるのもGood。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
和食にも応用できないものか
ということで、サイズ感の不満はあったものの、そこそこ満足する結果となった。
グレバを洗い落とす手間と、持ち帰る最中の匂いの問題こそあれど、大量に採れたら使ってみる価値は十分にあると思う。
とはいえ、やはり日本人たるもの、和食で美味しく食べてみたいなあという思いもある。
汁物はある程度美味しくできるような気がするけど、他はなぁ…
このまま炊き込んだりは…ちょっとリスキーだよね。。
コメント
>ともかく奴らは水に弱い。
>今後、本格的に地球侵略が開始されたときのために、ぜひ覚えておきたい。
サインネタでしょうかw
テレビの上に水でも置いて備えるとしますw
二度目の書き込み失礼します。
デイリーポータルZのHさんの記事にある「きのこ好きの友人」ってwackeyさんですね!
知人が紹介された気がして嬉しかったス
それにしても、プロのライターさんにも頼りにされるwackeyさんのキノコ知識ってすげえなあ
実は…そうなんですっ!って既に隠せていないですがw
平坂さんとはバラムツ釣り以来の友人ですけど、お互いに刺激し合える関係でとても楽しいです。(向こうは刺激をうけてなかったりして)
キノコについてはたまたまというか、もっと詳しい人も世の中に入るんですけど、友人で気軽に質問できるから聞いてくれてるだけだと思いますよ(^ω^;)
なかなかキノコの為だけに上京してくれることは無かったんですけど、このカニノツメでついに実現しました。今後増えてくれるととても楽しいんですが。。