今年もキノコシーズンが終わりを告げた。
種類・時季によって発生の多寡こそあったものの、会いたい種の顔は概ね見ることができたと思う。
それでも未だマツタケには自力で出会えておらず、また関東のマイタケにも遭遇できなかったのはたいへん心残りである。
今年新たにできた頼りになるキノコ友達と新しいギルド「チーム・マイタケ」を結成したので、来年こそはこういったレアキノコを仕留めてより深みを目指していきたいものだ。(油断すると崖から足を踏み外して、ちょっと深すぎるところへ行ってしまうけど)
今後は冷凍・乾燥して保存しておいたキノコをちびちび調理しながら、ときに街中や海辺の冬キノコを探索する日々となるだろう。
同時に、種々のキノコ図鑑やウェブサイトなどで知識のブラッシュアップを図るのも欠かせない。
机に向かい、資料を読み込むには良い時期だと思う。
そんな折、コンタクトフォームからこんなメールが届いた。
“はじめまして(中略)普段は海鮮物で珍しいのを探しているのですが、茸も興味が出てきたため勉強中です。
そこで本題なのですが、オススメの茸図鑑やガイド本を教えていただけませんか?
近所の本屋で手に取った(某図鑑名)を見ると、コウタケが毒キノコ扱いされており、内容が直売所で販売されていると書いておきながら食用にはすすめられないと、直売所の信用を落とすような書き方をしてありました。
サイトのコウタケラーメンの投稿を見る限りでは、香りが人を選ぶかもしれませんが食用でも問題ないのでは?と私は考えております。
このような本もあるようですので、参考までに使用されている本等をブログのエントリーででも紹介して頂けませんか? よろしくお願いします。 ”
リクエストありがとうございます(平伏)
いやー嬉しいなぁ。別に目新しそうな図鑑は使ってないんだけど、せっかくなんで紹介しちゃいましょう!
野食ハンマープライス的 オススメキノコ書籍4撰
日本の毒きのこ フィールドベスト図鑑
(長沢栄史監修/学習研究社,2009.9増補改訂)
のっけから毒キノコかよオイ、という声が聞こえてくる気がするが、この図鑑は日本のキノコ狩りの常識を覆した、と言ってもいいかもしれないほどの逸冊だ。
基本的に食用キノコについては「古くから食べられてきたものを紹介し、食べ方や味のイメージを喚起する」というスタンスで各種の図鑑が編まれてきた。
「食べられるキノコ」にフォーカスした図鑑はいまだに沢山のものが発行されている。
しかしこの図鑑は、「有毒」というエビデンスがあるものはすべて詳らかに載せており、これまで広く食べられてきたものも、道の駅や食材店で売られているものも分け隔てなく掲載している。
表記も「食用菌としての安全が揺らいでいる(アンズタケ)」「良い出汁が出るので人気があるが、食べない方が良い(ハイイロシメジ)」などのように、無駄な配慮は一切ない。
さらにはマイタケ、シイタケなどの栽培種として一般的なものについてもその毒性を紹介しているなど、まさにタブーなく「キノコの毒」に踏み込んでいる。
この図鑑を読んだ多くのキノコ愛好家はきっと「食用キノコも、基本的には毒があっておかしくない」と考えを改めることになったはずだ。
もちろん僕もそうだった。
この本が世に出てから、食用キノコについて「推定有罪」の考え方が一般化したといえるのだ。
でもそれは決して悪いことではない。
毒成分と症状が明らかになることで
「多少の毒なら健康体であれば代謝できるだろうから食べてみよう」
「今日は体調が悪いからこれは採らない(食べない)でおこう」
「タンパク質系の毒らしいから、しっかり加熱するために天ぷらにしてみよう」
といった合理的な考え方が可能になったからだ。
これにより、キノコ狩りツアーや観察会の講師を引き受ける時も、自信を持って説明できるようになった。
今回のリクエストメールにあった「コウタケ」についても、当然この本にも掲載されている。
毒成分はコウスチンという抗アレルギー性多糖をはじめセラミド類、ステロール類などで、生に近い調理法で食べると舌や喉のしびれ、発疹、排便時のに肛門の痛みなどを起こす、とはっきり書かれている。
同時に美味しいキノコであるとも記載があり、一度乾燥させてから戻し、しっかりと加熱して食べれば大丈夫、と太鼓判も押されている(他の掲載種でここまでフォローされているものは無い)
これをもとにいくつかの調理法を試してみたが、確かに生の個体を網焼きで食べたときはいくつかの口内炎が発生し、さらに翌日トイレでひどく悶絶することになった。
この体験だけを録ってみると「直売所では販売されているが食べない方がいい」という記載はいたく妥当なものに感じられる。
それでも乾燥品を戻して混ぜご飯にしたり、生のままで天ぷらにしたものは「ここまで美味しいキノコがあるのか!」と思えるほどの美味で、おすそ分けした友人からも中毒報告はない。
「正しい調理法を知らないといけない」キノコについて、書籍によって記載が分かれるのはやむを得ない部分でもある。
だからこそ、毒の情報についてワンストップとなる図鑑が必要になる。
キノコ好き、マニアックな愛好家なら既に全員が持っているものだと思うが、これからキノコを知りたい、採って食べてみたいという人にもマストバイの一冊である。
オススメ度:★★★★★
CP:★★★★★
増補改訂新版 日本のきのこ 山渓カラー名鑑
(今関六也ら著/山と渓谷社,2011.12増補改訂)
おなじみヤマケイの大図鑑。
しばらく絶版状態だったが、2011年にめでたく増補改訂版が発行された。
素人にとってはキノコのメインテキストであり、便覧であり、写真集でもありカタログでもあるという、こちらもワンストップな図鑑。
海外の図鑑では一般的な食味評価を(是非はともかくとして)初めて掲載した点も評価が高い。
増補改訂にあたって掲載種が増えたほか、食毒評価が大きく変わり、☆3つ(超美味)から赤星3つ(猛毒)に堕ちたものもいくつか散見されるなど全体的な見直しがなされているが、写真が以前のままであるのがやや惜しまれる種がある。
もちろんリビングレジェンド伊沢正名氏の写真が不朽の芸術であることは否定しないが…
さらに価格が初版と比べ倍近くになっているのもちょっとキビシイ。
出版業界に勤めるものとして昨今の情勢(低部数・高価格化)は重々承知の上だがやはりこれは…
まあそれでも、1冊あったほうがいいのは間違いないでしょう。
(※2015.12.1 版元での品切れによりAmazonへの入荷がストップしているとのこと。良い図鑑なので増刷を切に希望します。)
オヌヌメ度:★★★★☆
CP:★★★☆☆
検索入門 きのこ図鑑
(上田俊穂著/保育社,1985.5)
僕の生まれた年に刊行された、ポケットキノコ図鑑の草分け。
両親が僕にこれを買い与えたことでキノコ好き人格「茸本朗」が生まれた、様々な点で罪深き本だ。
まず何よりもサイズ感がよく、ポケットにすっぽりと収まるサイズになっている。
内容も古ぼけておらず、逆にこれで育った僕が他のポケット図鑑を読んでも「何番煎じだよ」と突っ込みたくなるくらいである。
肝心の検索表がざっくりとしすぎていて、実用感に欠ける気はするが、身近な種は網羅されており「軽く里山でも探索しようか」というときには重宝する。
内容面ではないが、かがり製本なのはマイナス点。
最新版はPURになってるかな?図鑑だから製本はこだわってほしいよ。。
オヌヌヌ度:★★★☆☆
CP:★★★☆☆
きのこ博士入門―たのしい自然観察
(根田仁著/全国農村教育協会,2006.4)
上記3冊とはちょっと毛色が違った、キノコの「観察図鑑」。
表紙デザインからは想像できないマニアックな内容で、ただ食べるためのキノコ狩りではなく、観察対象としてよく知りたいという人にはぴったりの図鑑だと思う。
正直なところ「入門」って名称に惹かれて買った人にはちょっと申し訳ないくらい濃い本だ。
いまでこそ広く知られるようになったハラタケ形キノコ→地下生キノコの進化の過程だが、最初に一般向けに説明したのはこの本じゃないだろうか。
他にも果物に擬態するカラフルなキノコや、菌糸による有機物の分解の過程など、他の図鑑本では見られないフシギな写真がいっぱい載せられている。
検索図鑑としてはいっさい役に立たないけど「我こそはキノコマニアなり」という人は一冊買っておくと興味が尽きないかと思うよ。
ヌヌヌヌ度:★★★☆☆
CP:★★★★☆
図鑑を買おう!山へ行こう!
キノコ狩りツアーのとき、僕はよく以下のような説明をする。
とあるキノコについて、そのもっとも典型的な姿(イデア?)を10としたときに
・図鑑の写真は7~8以上
・ウェブサイトの写真は5~6以上
・現物はほとんど4~7くらい
つまり、ウェブサイト(特に個人のやってるもの)の写真と現物とでは全く違うものも多く存在するということだ。
さらに、監修者がいないウェブサイトでは。別種の写真を誤掲載してしまうことは非常に多い。(このサイトも何度か間違ったし)
それに比べると、やはりしっかりとした版元の発行している図鑑は誤りが少なく、また「典型的な写真であるか」ということを著者、監修、そして編集者がしっかりと討議したうえで掲載しているので信頼に値するのだ。
もちろん僕みたいなちゃらんぽらんな編集者が作っている本なら話は別だけど…ww
ということでみんな、どんどん図鑑を買いましょう。
図鑑を持たずにキノコ狩りへ行くのは、金属探知機を持たずに地雷原を歩くようなものだと思いますよ。
コメント
初めまして。
紹介されていた『増補改訂新版 日本のきのこ 山渓カラー名鑑』なのですがどうやら版元品切れで書店からは注文出来なくなっているようです。
おそらくAmazonのものはプレミアの付いた中古本ではないかと思われます。
コメントありがとうございます。
たしかに、そのようですね…失礼しました。
丸善本店やジュンク堂などにはまだあった気がしますが、品切れであればこれも時間の問題でしょうね。
しかしもう品切れとか、発行部数少なすぎるだろ…(笑)
これは、えらいもんを見てしまいました。
キノコは、よく知っている人と一緒じゃないとダメと、自己規制をかけていましたが、こんな情報を見てしまうと、図鑑買ったらやれんじゃねー?
なんて、夢が膨らんじゃいますよ!
ヤバイ、一冬考えて、冷静になってから、始めます。
コメントありがとうございます!
ここに挙げた中で、「日本の毒きのこ」と「日本のきのこ」の2冊があれば、独力でキノコ狩りに行っても大丈夫だとは思いますよ!
もちろん確信が持てないものは採らない、採ったキノコに似た毒菌が無いかしっかり探す、図鑑の記述を無視しない、といった基本的な約束事を守っていただく必要はありますが…
とくに写真だけで同定したつもりになるのは本当に危険なことなので、それだけはないようご注意願います!!
お気遣いありがとうございます。
自己責任で、慎重にやりたいと思います。
確信が持てないものは、写真撮影で満足しときたいですね。
始めないとどうなるかわかりませんが^_^
こんにちは、コメントフォームに投稿させていただいた者です。
大変勉強になりました、ありがとうございます。
確かに豚肉の生食等調理の仕方はキノコにも言えると納得しました(ただ、某書は特にフォローもなく不可でしたが…)
この四つを参考にキノコを勉強していきますm(__)m
こちらこそ、リクエストありがとうございました!
某図鑑は小型判で字も大きいので、調理法について載せるスペースがとれなかったのかもしれませんね。とはいえコウタケを「食べない方がいい」と断定してしまうと、全国のファンからかなりひんしゅくを買うと思いますがw