日本人はキノコが大好きな民族で、古くからキノコ狩りというアクティビティが好まれてきました。
しかしその一方で、世界的にみても不思議なほどに「キノコにかかわる迷信」が残っており、「縦に裂けるキノコは無毒」「木に生えるキノコは食べられる」「地味な色をしているキノコは安全」といった言い伝えがいまだに信じられているという状況です。
日本が科学立国などという話が全くの嘘なのはすでに皆様もご存じかと思いますが、しかしそれでも自分の命にかかわることまで迷信にすがってしまうあたり、やはりわれわれ日本人はアンチサイエンスな国民なのだなという諦念を強くします。キノコ中毒で死ぬの、この世で最もくだらない死因の一つだと思うんだよなぁ……
さて、上記の3つの言い伝えはキノコにまつわる迷信の中でももっとも著名なもので、これらによって中毒事故が多発しているキノコはいくつもあります。そしてその中でもとくに事故が多い3つを「毒キノコ御三家」と言ったりします。
これにはいくつかの候補がありますが、一般的には「カキシメジ」「クサウラベニタケ」そして「ツキヨタケ」の3つを指すことが多いです。
そしてその中でもダントツトップ、一説にはキノコ中毒の8割近くを占めるともいわれる恐怖の毒キノコ、それがツキヨタケです。
カキシメジ、クサウラベニタケは「縦に裂け」「地味な色をしている」の2点を満たしていますが、ツキヨタケはそれに加え「木から生える(おもにブナ)」という点も満たします。つまり完璧。
そしてご覧の通り
みんなの大好きなシイタケに似てるっちゃ似ています。こんなキノコが倒木の一面にモサァァアアアって生えてたら、キノコ興味ない人でも「これ食えないんかな?」って思うでしょ?
というわけでブナの木の多い北日本を中心に毎年何件ものツキヨタケ中毒事故が発生します。発生量も多いうえ中毒症状の発生には数十分ほどかかるので、症状が出る前に大量に食べてしまった結果、生死の境をさまようこともあるそうです。あなこわやこわや。
毒成分はイルジンS、イルジンMそしてネオイルジンという謎あふれるものたち。暗闇で光るという性質もあり、キノコをまじめに勉強した人なら全く手を出す気にならない、毒キノコの中の毒キノコです。
……なんですが、先日それを食べる機会に恵まれました。
ツキヨタケ、割とうまい
昨年、借金玉さんとともに野食イベントをさせていただいたときのこと。
最後の質疑応答の時間に、参加者のひとりから「茸本さんはツキヨタケを食べたことはありますか?」という胸元インハイ156㎞/hのストレート質問が飛んできました。
びっくりしながら否定をすると「山形では食べる地域があり、今度試してみようと思っている」という驚きの返事が。なにそれ怖い、怖いけどめっちゃ気になる。
イベントの数日後、その質問者ことハンターシェフさん(@kinokochef)から「毒抜きに成功した」という報告とともに、試食イベントへのご招待をいただきました。
ぼくにしては珍しくかなり迷いましたが、えーい、ままよ! と思い切って飛び込んでみたのです。
会場にはシェフ手ずからの料理が並び、おいしそうな香りが漂います。その中でも最もおいしそうで、かつ禍々しさのあるオーラ(凝を使わないと見えないレベル)を発している鍋をのぞき込みました。
シェフさんこれ……ツキヨタケ……ですよね?
「はい、毒抜きのうえスープにしました。」
やはり……
キノコ屋さんなら誰でも知っているツキヨタケの特徴、柄の付け根の黒いシミ。
そしてヒダにあるツブツブ。
毒キノコ御三家筆頭、ツキヨタケの毒成分であるイルジン類は水溶性。塩漬けと水さらしを複数回繰り返すことで無毒化が可能だそうですが……うぬぬ……怖い……けど、いてまえ!!
いただきまーす
……Σ(`・〰・´)
さわやかな香りがする……! エリンギや栽培マイタケのきのこ臭をまろやかにして、ちょっとお茶の葉の清涼感を足したような!
味は……さすがにそこまで強くはないけど、最低限のうまみはありますね。食感もかなり良くて、かさの周辺は開ききったシイタケのようで、柄の部分はホンシメジのようなプリプリコリコリ感があります。
食後30分様子を見ましたが、中毒はせず!
よい経験でした。。自分でも試してみたいけど、塩漬けを長期間しても毒は完全に消えないという論文(コメント欄参照、教えていただいてありがとうございます)もあるそうだし、もう少し検証が必要ですね。少量ずつ試してみようかな。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
櫛田川野食会・フェモ採取会募集開始のお知らせ
はい、というわけでお待たせいたしました、櫛田川野食会のお知らせです。。
今回も三重県の猟師ゆぞくさん(@vbokcwhLNk9ROi5)にご協力いただき、開催させていただくことになりました。
やっていきましょう!(≧ω≦)
今回も昨年同様、フェモラータオオモモブトハムシ採取会とセットで行います。
三重県松阪を中心に定着が確認されているこの外来昆虫、年々棲息域を広げているようですが、一方でその美味しさも知られるようになっており、松阪のある意味名物みたいになりつつあります(なったらいかんのだけど……)せっかく松阪に来るのだから、こちらの採取というアクティビティもやってみたい、そんな皆さんのためにイベントを開催させていただこうと、そういう話です。
ただ、採取会と野食会はそれぞれ独立したイベントにして、片方だけの参加も可能とします。野食会では虫以外の食材も充実させ、虫嫌いの方にもご参加いただけるよう配慮いたします。
とくにジビエ肉は大変充実すると思います、ですよねゆぞくさん……!?
開催にあたりお願いしたいことがありまして、まず当日は採取後、その場で試食する分ふくめすべて、現地で加熱殺処分を行うので、ご協力ください。
そして、これも去年同様ですが「フェモラータオオモモブトハムシの日本における現状と拡散防止のための努力」について、簡単な講習会を行いますので、大変お手数ですがご参加をお願いいたします。
フェモが日本に入ってきた理由はまだはっきりとしていませんが、愛好家が持ち込んだ可能性が指摘されています。
ハムシの中ではとりわけ大きく、非常に美しい色彩を持っているこの虫、もしかすると「持ち帰って飼っちゃおうかな」と思いたくなる方が出るかもしれませんので、彼らがいかにヤバい存在であるかについて説明することが主催時の義務だと考えています。
フェモラータオオモモブトハムシ(Sagra femorata (Drury))
まあそれはそれとして、味はとてもいい虫です。
みんなで美味しく楽しく食べちゃいましょう!
櫛田川野食会 やっていきましょう
開催要項
主催:茸本朗・野食ハンマープライス
日時:
採取会:2020年2月29日(土)9:00ごろ開始~13:00ごろ終了
その場で加熱処置まで行います。途中参加、退場も歓迎します。
野食会:2020年2月29日(土)15:00ごろ乾杯~19:00ごろ一旦締め
開場は14:00ごろの予定です。調理や準備などのある方は早い時間にお越しください。また、終バスの時刻もありますので、途中退場も大丈夫です。
会場:リバーサイド茶倉
三重県松阪市飯南町粥見1084-1
JR・近鉄「松阪駅」から三重交通バス飯南方面約40分、「畑井」下車後徒歩約10分
駐車場あり
山の中なので、車での送迎は計画中です。。
希望者は宿泊も承ります(コテージ泊 素泊まり5000円/人 朝食付も可)
お気軽にお申し込みください。
場所の詳細はリンク先へ。
会に関わるご質問は、会場ではなく茸本までご連絡ください。
費用:
採取会:無料
野食会:食材をお持ち込みいただける方 4,000円
お酒のみのお持ち込み、もしくは手ぶらでご参加の方 5,000円(いずれも飲み放題付き)
食材のご用意について、皆さまにかなりの費用・手間を費やしていただいているため、
2段階の料金設定をもうけております。
ちょうどのお支払いにご協力をお願いいたします……!
手ぶら枠の方でも、食材の持ち込みは大歓迎です!(申し込み時にお持ちになる予定の食材をご連絡ください)
基本的に「自分の獲ってきたものを食べてほしい!」という欲求を開放する会です。
なお今回、特にお酒の持ち込みについて歓迎いたします!
こちらで用意するものは以下の通りです。
ビール 適宜
日本酒 適宜
ワイン 適宜
ジビエ各種!!!
深海魚・マイナー魚(手に入ったもの)
各種野生キノコ
※※ベニテングタケ・ツキヨタケ等毒キノコは出ません! お持ち込みも固くお断りさせていただきます。※※
野草 適宜
その他食材を多少
調理器具(出刃・小出刃・柳刃・うろこ落とし・フライパン・まな板・プラカップ・紙皿・卓上コンロetc.)
※注:食材の量を把握したいので、御持ち込みいただける方はざっくりとで構いませんので、お持ちいただけるものと量をお知らせ頂けると助かります!
参加資格:とくに制限なし!
「野食」に興味がある人ならだれでもウェルカム!
途中入退場は自由です!
★☆★応募方法について☆★☆
今回は募集期間の設定はありません。本日ただいまより、満席になるまで(`・ω・´)
お申込み時は持ち込み枠か手ぶら枠かのご連絡もあわせてお願いします!
当ブログサイドバー、あるいはページ上部にリンクされているお問い合わせフォームからお申し込みください。(twitter、LINEなどはご遠慮ください)
・持ち込み枠の方は、お持ち込みいただける食材の詳細と量についてご申告ください。
・ご参加の可否についてはお申し込み後順次、応募いただいた皆様に返信いたします。
・基本的には先着順です。
ご不明な点や質問などございましたら、当記事のコメント欄、あるいはお問い合わせフォームからいつでもご連絡くださいませ。
(こちらが回答したご質問については、記事内にも転記させていただくことがあります)
皆さまからのご応募・ご連絡をお待ちしております! (_ _)
コメント
調理加工を行ったツキヨタケ中の中毒成分イルジン S の残存量
http://www.eiken.yamagata.yamagata.jp/pdfshohou/No.52/4-1_reaearch_letter.pdf
によると、ツキヨタケの主毒成分であるイルジンSは、紫外線、熱によって分解し、水溶性であることから煮沸、塩漬けなどによってイルジンSが溶媒に溶解します。
ただしいずれの手法でも十分な毒抜きはできず、最も残存率が低い6ヵ月の塩漬けでも9%イルジンSが残存します。この場合、これを40g摂取すると毒症状が発現することが期待されます。
また、ツキヨタケのイルジンS含量は個体差が大きく、高濃度個体が混入していた場合、溶媒からイルジンSが他個体に拡散するおそれもあります。
ということで、いかなる毒抜き処置を行ったとしてもおもてなしすることはあまり推奨されません。毒抜きしたものを食べるにしても実験的に少量食べる程度にした方が良いでしょうね。
シェフに確認したところ、ウィキペディアのツキヨタケのページに記載のある
“塩蔵(沸騰水中で10分間熱した後、菌体を一分あたり500mlの流速にて流水中に48時間さらし、水切りをしてから、重量比で1.5倍量の食塩を加え、室温下で5週間保存)してから水中に投じて48時間の塩抜き”
という方法で毒抜き処理を行ったとのことです。
論文では「塩蔵6週間で9%のイルジンS残存」ということですが、その状態で食するのは確かに危険でしょうし、毒抜き処理としてはまったく不十分であると感じます。
国の資料見つけました。
どうぞご活用下さい
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142114.html
ありがとうございます! 安心と信頼の「自然毒のリスクプロファイル」( ̄ー ̄)