すり身にして食べることで、そのポテンシャルを発揮する上、失格することなく楽しむことができると分かったバラムツ。
ですが、それでもいまいち信じられない部分はあります。
そもそもバラムツは冷凍するしないにかかわらず、切り身からドリップがめっちゃ出ます。
そのドリップ自体が油で、しかも冷蔵庫に入れておくと凝固します。
どう見ても魚の油ではなく「ああ、人体に入れたらいけない油なんだろうな……」と素直に実感できます。
バラムツとアブラソコムツの脂質の違いについては文献を見つけることができませんでしたが、いずれも体組成の50%近くが体脂肪、そしてその90%近くがワックスエステルだとされています。
バラムツの方なら美味しく食べられる……というのが今の時点での個人的な感覚ですが、歴史的なことを言えば、先に流通が禁止されたのはバラムツ(1970年)、アブラソコムツはそこから10年以上後のことで、この時間差を見るとバラムツの方が危険だと考えられていたのかなという気もします。
いずれにしても、その味のいかんを問わず、バラムツを食べる場合はできる限り脂分を排除することが必要になります。
わが国でバラムツ・アブラソコムツを食している地域はいくつかありますが、例えば静岡・焼津の長兼丸船長は「食べるときはまず味噌漬けにする」とおっしゃっていました。
あるいは、塩漬けにする事で油がかなり抜けるという話があります。
ワックスエステルは普通の魚の油(DHA)と違い、非常に流動性が高く、とくに圧をかけず放置しているだけでも、ドリップとして筋肉から析出します。
釣れたこれらのワックス魚を締めると、傷口から血よりも大量に漏れててくるぐらい滑らかで、さらさらとして水に近い質感をしています。
普通の魚の油であれば、塩漬けにして出ていくとは考えづらいですが、ワックスについては浸透圧である程度抜くことができそうです。
さらに加熱方法についても、焼くとすぐに焦げてしまうので長時間焼き続けるのは難しいのですが、蒸す、あるいは燻すなどの方法を使うことで、澪焦がさないように長時間加熱しながら、できるだけ油(ワックス)を出すことができるのではないかとも思います。
ということでこれらの工程をうまく組み合わせれば、やっていくことができるのではないでしょうか。
そう、燻製です。
バラムツの味噌漬け燻製
バラムツは薄めのサクに切り、塩を強めにまぶしてペーパータオルでくるみ、一晩おきます。
水分と油が大量に出るので、何度か巻き替えるのがいいでしょう。
漬け床を作るにあたり、ヒントとなるのは以前にゃごにゃさんに教えていただいた蜂蜜味噌燻製。
通常の燻製の漬け液と比べるとよりシャープで、イノシシやアナグマなど脂の強いジビエに非常に良く合います。
味噌と蜂蜜をまぜ、塗りやすい柔らかさになるまで味醂で伸ばします。
水気を切ったバラムツ切り身にたっぷりと塗り付け、
ペーパータオルで数重にくるみ、冷蔵庫で数晩保管。
取り出して漬け床をよくふき取ります。
ここで、まだあまり水分が出ていないと感じたら、再度溶け床をまぶして放置しましょう。
水分が残っている⇒ワックスもたっぷり残っている、という理解でいいと思うので。
これを陰干しして表面をカラッとさせた後、いよいよ燻製にかけます。
燻製器でも、適当な鍋でもいいですが、注意点が2つ。
①熱源は比較的近くに
②油受けを置く
①について、この時期野外で燻製をすると、市販の燻製器などでは外気温の低さから「温燻」状態になることがよくあります。
今回は余計な油(ワックス)を落としつつ、焦げない・燃えないように長時間熱するのが目的なので、熱燻状態じゃないと意味がないのです。
だから中華鍋燻製のほうがいいかもしれない。
②については、熱源が近いというのも理由ですが、大量の油が溶けでてチップの上に落ちることでチップが大炎上し、マジでシャレにならない事態になる可能性があります。
仮にそうならなかったとしても、ワックスで燻されたものとか食べたくない、でしょ?
ということでうちではこんな感じの装置になります。
強めの火力で1時間ほどやりましょう。チップ切れに注意。
ついでに先日作ったバラムツ黒はんぺんも燻しちゃえ。
燻製し、しばらく味をなじませたら
完成!
ところでこの油受けを見てくれ……こいつをどう思う?
すごく……大量です……
まるでワセリンみたいに白濁した、いかにも「ワックスです」という見た目の油がたっぷり取れました。
0度近い外気温のせいか凝固しかけています。どう見てもカタギの油じゃねぇぞこれ……
まあ、それだけワックスを排除できたということであれば、食材としての安全性はかなり向上したでしょう。
気を取り直し、いただきましょう。
……(≧~≦*)
ウムムム、これまた大変なる美味……!
バラムツは、脂が筋繊維1本1本の間にまんべんなく入っているようで、噛みしめるとはらはらと崩れてジューシーな脂がじゅわっと出てきます。
その脂も、かなりの量が析出したあとなので全くしつこくなく、全体として上質なギンダラのような質感に。
そして蜂蜜の甘みとこの脂がまたよく合うんだ……!!
バラムツの魅力は脂ではなく、食感にあると見つけたり!
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
今回も50gほど食べましたが、さあどうなるか……?
……
……うん、大丈夫……そう……
若干お腹がゆるくなるタイミングが合ったけど、失格はしなかった!
でもこの2倍くらい一気に食べたらたぶんやらかすだろうなぁ……
定食屋さんのギンダラみりんとか、サケのハラスとか、少ないなぁと思うけどいざ食べてみるとちょうどよく感じますよね。
バラムツの燻製も、あれくらいの量ならばまず大丈夫そうです。
コメント
一般的に「食べれへん」と呼ばれる食材に対する、飽くなき探求心と調理スキルの高さに乾杯♪
これだけ流動性が高いワックスなら、切り身を遠心分離機にかけてブン回したら、きれいにワックスだけ抜けるかもしれませんねw
確かに彼(バラムツ)は指定を受けているからカタギではない。
脂っこいのは大好きで
実際ワックス魚にも興味津々ですが
一般人ではなかなか手に入れられないので羨ましく思います
燻製にしても美味しそうですね
バラムツの方が先に禁止になった理由としては
味の良いバラムツのほうがそれだけ多く食用として利用されていたからとも考えられますよね
バラムツ、とても興味深いです、、