2021.3.12修正追記
超巨大バラムツ調理シリーズ第2弾。
バラムツという魚は、これまで何度かお伝えしたとおり、含まれるワックスエステルのために我が国では販売することができません。これは食品衛生法で規定されており「料理として提供すること」「不特定若しくは多数の者に授与すること」も許されていません。
しかしそれはつまり「金のやり取りや不特定多数への提供を行わなければ、食うのも振る舞うのも咎め立てされる筋合いはない」ということでもあります。
※以前、名古屋の調理専門学校が授業中に生徒にバラムツを試食させ問題になるという出来事がありましたが、あれは法的にダメだったというわけではなく、クレームを受けた専門学校がビビッて「もうしません」って言っただけです。
したがって「なんでも調理できるシェフのいるお店にバラムツを持ちこんだ結果、偶然にも彼らが恋に落ちてしまい素晴らしい賄い料理ができあがり、そのご相伴にあずかった」というのももちろん問題はないわけです。自由恋愛は法律で規制できないからね、しょうがないね。
そういうわけで今回は、バラムツをプロの手で素晴らしい料理に仕上げてもらおうということになりました。
しかしそんじょそこらの板前さんじゃワックス魚を御することはできない。そこで我々はこの手の厄介な野食材をおそらく日本で一番取り扱っているであろう、最近話題のあのレストランにバラムツを託すことにしました。
ANTCICADAのシェフにバラムツを調理してもらった
伺ったのは、いま最もホットな野食材レストラン「ANTCICADA」さん。
メディアでたびたび取り上げられる「コオロギラーメン」で知られていますが、彼らの扱う食材は昆虫に限ったものではありません。ジビエ、海水魚、淡水魚に野草、キノコに至るまであらゆる「地球の幸」を使い、独創性あふれる料理を食べさせてくれます。
そんな彼らならきっとバラムツも美味しく仕上げてくれるだろう……と期待で胸が膨らみます。
営業時間中に調理していただくわけにはいかないので、お休みのところにお邪魔させてもらったのですが、24時間エンドレスで流れる心地よいBGM(フタホシコオロギの鳴き声)が出迎えてくれました。
もちろん彼らはただの管弦楽団ではなく、食材にもなります。愛でてよし食べてよし。
大人っぽくシックでおしゃれな店内には、虫で仕込んだ各種調味料やおしゃれな装飾品、調理器具が所狭しと並んでいます。
驚いたのがこのお皿。
美しく発色しているこの釉薬ですが、なんとカブトムシの糞を原料に用いているそうです。何から何までこだわりぬかれている……!
今回調理してもらうのは、バラムツの筋肉と
腸。
160㎝超のサイズだけあって腸だけでも50㎝程あり、厚みもあって美味しそうです。
とはいえ自分も食べたことがなく、食感や質感などは分かりません。ぶっちゃけ無茶ぶりのつもりで持ち込んだのですが、ANTCICADAの白鳥シェフは「へぇ~、大きな魚の腸ってこんな感じなんですね~」と特段の動揺も見せず受け取ってくれました。
さすがだ……
談笑しつつ待っていると、まず提供されたのがこちら。
まるで白いバラの花のようですが、これはいったい……?
手前に置かれたスポイトも気になります。
いただきまーす
……(≧〰≦*)すごい! とろける!!
いきなり生のバラムツですね……しかしただの刺身と比べると薄いのに味が濃厚、そして中に何らかのソースが入っていますね。これはいったい……?
「脱水シートで脱水したバラムツを凍らせて、薄くスライスしました。中に入っているのは低温調理された卵の黄身のソースです。」
なるほど!
バラムツは多くの深海魚同様に身が水っぽく、ただの刺身の状態で噛み締めるとその水分と脂がぶしゃっと染み出てきてあまりおいしくありません。
そのため水分を抜いてその不快感をなくすと同時に、本来の身の美味しさをクローズアップさせているんですね。こうすると、まるで本マグロのような心地よい酸味が立ってきて、まさに「全身大トロ」の名に恥じない味になります。
それに加え、凍らせて薄く切る「ルイベ」の手法を用いることで、舌の上で溶ける感覚をもたらしてます。バラムツ本来の脂による「とろけ感」にこれが加わり、無敵の舌触りに。
「そのスポイトですが、中に入っているのはうちで作っている『コオロギ醤油』です。」
なんと! ANTCICADAの代名詞ともいえるコオロギ醤油が、こんなところで登場です。
まずそのまま舐めてみると……予想以上に醤油感が強い! かつ、まるで鰹節のような強いうま味もあります。大豆を使っていないので豆っぽい香りはなく、麹の風味が立っていますね。
そして飲み込むときに、鼻腔の奥に奥からふわっと青い香りが漂います。きっとこれがコオロギ本来の風味なのでしょう。
このコオロギ醤油を、バラムツに垂らして味変しろというのですね。なんという贅沢。かけてみまーす。
……( *´〰`)めっちゃ合うやん……!
バラムツの強い油感にも負けないコオロギ醤油の濃厚な風味が、お互いの味を盛り立てあいます。まさにオンリーワンの料理ですね。一発目から完全にノックアウトされてしまった。。
続けて出てきたのがこちら。
一見すると普通の照り焼きですが……
「西京焼きにしました。脂を落としながらじっくりと焼いています。」
この、上に乗っているものは?
「ハマボウフウ&ボタンボウフウのつぼみのピクルスです」
なんと! ここでボタンボウフウとは全く予想外です。
この組み合わせ、どんな味なんだろう……いただきまーす
……(`・〰・´*)これもめちゃうま
バラムツはそもそも照り焼きにするとギンダラもかくやという味になるのですが、西京焼きにすることで、さらにその一歩先に到達しています。
そしてそこに合わさるボウフウのピクルスですが、正直ため息が出ました。どういう経験を積めばこの発想力が生まれるようになるんだろう。
ボウフウ、特にボタンボウフウはセリ科の野草で、セロリを薬臭くしたような非常に癖の強い香りがあります。これをピクルスにして添えることで、その脂の強さゆえに濃厚ながらものっぺりとした味になりがちなバラムツの照り焼きにピンポイントのアクセントを添えています。レモン汁をかけるみたいな小手先のテクニックとは一線を画す技術です。
この照り焼きをじっくりと味わっていると、厨房のほうから香ばしい香りが漂ってきました。
何が出るのかとワクワクしながら待っていると、出てきたのが
これ。
これは……腸ですね!?
「はい。一口サイズに切った腸を、コオロギ醤油とみりん、砂糖、日本酒で作ったタレに漬け込み、炭火で焼き上げました。」
なるほど! しかしこれ、魚のモツとは思えない見た目だ……
いただきまーす
……!(≧〰≦)コリッコリでウマー
強靭な筋肉とプリッとしたゼラチン質が3層構造になっていて、豚のガツや牛のギアラにそっくりです。
下処理とタレのおかげか臭みも全くなく、濃厚な甘辛味に仕上がっていて、噛めば噛むほど旨味が出てきます。
これはビールが止まらなくなる味……!
味:★★★★★
入手難易度:基本的には食べられません、今回は特別中の特別。
バラムツまじ美味いじゃんね
いやはやびっくりしました。まさかここまでの味になるとは……
特にびっくりさせられたのはやはり最初の「バラムツのルイベ」ですかね。まさか下処理をすることであんなにバランスの取れた味わいになるとは。
よく比較される食用魚のアブラボウズにはあの類の酸味がないので、同じように調理をしてもこんなに大トロっぽい味にはならないと思います。その点では「アブラボウズよりバラムツのほうが美味しい」と判断する人も出るかもしれない。
ANTCICADAさん、本当にありがとうございました! 次回は「流通可能な食材」を持ち込ませていただきますね(;´∀`)
そして、バラムツについては引き続き、自分でも「油を尻からできるだけ出さない」食べ方を研究したいと思います。キーワードはあの「無機物」食材。
今回の内容を動画でもご覧いただけます↓↓
コメント
アントシカーダ?蟻、蝉…?凄い名前ですね
ラガー!ビールはそれが最強です