昨日のぶどのためにスーパーでトビウオ(ハマトビウオ)を購入したのだが、捌きながら改めて思ったのは「トビウオってボラにそっくりだよなぁ」ということ。
ちょっと前の図鑑だと「トビウオはボラと比較的近い種である」みたいなことが書いてあって、今でも釣り人の中には「ボラはトビウオの近縁種だから、よく飛び跳ねるんだよ」みたいなことをいう人がいる。
と言うか、僕がそうだった。
しかしDNAによる再分類が進み、ボラはボラ目に、トビウオはダツ目にと、まったく異なる目に再分類された。
目が違うものを近縁と呼ぶのはちょっと心苦しい。(呼んでもいいけど)
しかし、見た目から考えると、釣り人でなくてもきっとそっくりだと思うだろう。
ボラには長い胸鰭こそないものの、上から押しつぶされたような平らな上半身、三角形の断面、顔のパーツのそれぞれや「への字」に曲がったおちょぼ口など、収斂進化の結果とは思えない点も多い。
そもそもダツ目ってのが曲者で、いまだ目に含まれる科が確定しておらず、そのうえメダカも含まれるという俄かに納得のいきづらい分類なのだ。
「ダツとメダカって近縁なんだよ」って言ったら漁師さんや魚屋に馬鹿にされそうな気がする。。
どうにも飲み込めないので、ここは得意手段の「食べ比べ」によって個人的に考察してみたいと思う。
ボラとトビウオ、その近似性
というわけで改めて別の日、職場近くの某スーパーでボラを購入した。
このスーパーは土地柄もあってプロの人も多く訪れるため、一般人があまり食べないような食材もたくさん取り扱われている。
ボラもその一つだ。
実をいうと、以前からここのボラが気になっていた。
そもそもスーパーマーケットでボラを買うという行為が非常に新鮮なうえ、だいたいの場合産地が大阪湾であることも興味深い。
これは別に大阪湾をDisっているのではなく、寒ボラと言えど内湾産、しかもわざわざ大阪で獲れたものを東京の店まで運んでくるというのがちょっと不思議に思えたからだ。
ここではほぼ周年にわたりボラが入荷し、刺身用として売りさばかれているので、しっかりとした需要があるのだろう。
何より、食べずにものごとを判断することはできない。
持ち帰って、さっそく捌くことにした。
ボラを捌く
寒のボラは脂がのり、目の周りに「脂瞼」とよばれる脂の層を持つようになる。
このため目が濁っているように見えるが、非常に新鮮で食べごろなものだと言える。
鱗を剥ぐのが一苦労だ。
今回のボラは60㎝ほどであったが、1枚のうろこは1円玉ほどのサイズがあり、鎧のように体表を覆っていて剥がそうとすると飛び散る。
台所に魚臭さが移らないよう、ビニール袋の中で丁寧に落とす。
ボラの断面は逆三角形になっているが、腹腔は意外なほど大きく、また泥の中の有機物を食べるため腸が非常に長い。
内臓は捨てるが、胃の入り口にあるそろばん玉状の筋肉「へそ」を忘れずにとっておく。
3枚に卸すが、やはり皮に特有のボラ臭さ(泥臭さと青臭さを合わせたような臭い)があるので、皮を切るたびに包丁をよく拭き取り、身に臭いが移らないよう細心の注意を払う。
皮を引くと、ややどぎついほどに赤い血合いが現れた。
サク取りして血合い骨を引き、そぎ切りにして
刺身完成!!
この時点で特に不快な臭いは感じない。
ボラを食べる
(・~・)…
脂がのってるね。
身がしこしこっとしていて、悪くない。
悪くないけど…ちょっと酸っぱい?
血合いの部分がやや酸っぱいようだ。
市場に出ているものだと、首をボキっとおって軽く血抜きされているものが多いので気にならないのだろうが、スーパーにそれを求めるのは酷だろうなと思う。
多くの人が懸念するだろう「臭い」については、しっかりと拭き取りながら捌いたためかそれほど気にならなかった。
ただ、食べ慣れていない人や魚臭さが嫌いな人にはちょっと厳しいかもしれない。
個人的にも、そこまで大量に食べられないと思ったので、残った身は
インドカレーに。
かつて2chで読んだのだが、インド人はボラが大好きで、インド人船員は立ち寄った港でボラを釣っている人を見かけると嬉しそうにもらっていくのだという。
ボラは骨が大きくて身離れがよく、臭いに関してもカレーに入れてしまえば気にならないために当地では好まれているのだそうだ。
ソースがソースなので本当かどうかはわからないが、納得はできるエピソードだ。
というよりも、カレーに入れる魚はちょっと生臭かったり、クセが有ったりする者の方が個性的で美味しかったりする。
果たしてこのボラも、軽い酸味がアクセントとなり、ほくほくした身がスープと絡んで大変美味しかった。
特に「へそ」がサクサクして美味い。食べやすい砂肝みたいだ。
川崎港のボラもカレーならひょっとすると食べられたりして…w
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
トビウオを捌く
翻ってトビウオ。
トビウオは夏の魚と言われるが、この時期に南の島から送られてくるハマトビウオは今が旬だという。
夏はたしかに美味しいが、脂はほとんど乗っていない。
寒のトビウオを食べるのは初めての体験だ。
改めて顔を見ると、非常にボラに似ている。
色味はボラと比べるとやや青みが強い。
捌いていて、まずボラと違ったのは鱗。
体表をがっちり覆っているのかと思いきや、比較的簡単に落とすことができる。
このあたり、確かにダツにも似ているかもしれない。
胸鰭からたすき掛けに包丁を入れて頭を落とす。
大きさに対して中骨が想像以上にやわらかい。
このハマトビウオは他種と比べても胴体が角ばっており、角トビなどと呼ばれることがある。
特徴的なのはその腹で、真っ平らで鱗が非常に落としやすい。
腹腔はボラと比べると非常に小さい。
また内臓の量も少ない。
これらの形態はすべて、滑空のために極限まで肉体をそぎ落としたことによるのだろう。
“飛翔”の蝙也を思い出すね。え?なに?おっさん黙れって?
3枚におろし、腹骨をすく。
皮は手でも包丁でも引ける。
血合いの色はボラと同じようなきつめの紅色だ。
血合い骨を落とし、トビウオらしい幅のある平造りにして
完成!!
トビウオを食べる
(・~・)…
ボラの身がしこしこした感じだったのに対して、トビウオはもちもちしている。
寒なので脂の乗りに少しばかり期待していたのだが、やはり非常に淡泊であった。
夏だろうが冬だろうが、シイラに追われたら滑空しなくてはならないのだから当たり前と言ってしまえばそうなのであるが…
しかし、脂がない分青魚の風味はしっかりしていて、血合いの酸味も逆に心地よい。
刺身でも十二分に美味しいが、なめろうにすると最高に美味いに違いない。
焼いても美味しいのは昨日書いた通り。。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
似ているのは顔と体型だけだった
というわけで食べ比べてわかったのは、外見は近くとも、中身は全く違うということであった。
良く考えれば生態も食性も全く違うのだから当たり前と言えば当たり前であるが…
表層を泳ぐことはあっても基本は底生で、浅海にいるため大型魚に追い回されることもなく、天敵は捕食の下手なスズキと鳥程度のボラに対して、常に表層を高速で泳ぎまわり、外洋であらゆる敵に追い回され、シイラやマグロに超高速で追い回される中で己を絞り上げ空中に活路を見出したトビウオでは、全く生き方が違うのだ。
その点では、捕食者でありながらも、自らもしばしば大きな捕食者の餌となり、表層をせわしなく泳ぎ回るダツとトビウオは似ている気がしてきた。(メダカとの共通点は相変わらず思い当たらないが)
意識の中で独りよがりに分類をしてしまうと、その食材の最も適した食べ方を見失ってしまう。
今後も下手に知ったかぶることなく、それぞれの個性を大事にして食材を追求していきたいと思う。
コメント
はじめまして。ここは出てくるものが皆美味しそうで見てるとお腹が空いてきます。
食味の大元はそれぞれの遺伝子を元に合成される物質でしょうから、基本種が遠ければ遠いほど違った味になるってのは感覚的に納得できますね。生育環境でまた変わってくるとはいえ。
そういえばメダカも食用として有名ですが、まだここにはメダカを食べた報告が無いようですね。
減少中の野生メダカを食べるのはちょっとあれなので、カダヤシグッピーの類を捕まえるかして食べてみようかと思ってます。