健康志向の高まりか、はたまたグルメブームのせいか、「真の魚喰い」を自称したがる人は数多いて、テレビでも「魚の美味しい店」特集みたいなものが増えてきた。
僕の周辺にも、魚について知っている! と自慢げに話す人がちょこちょこ出てきているのだが(そんなの日本人なら当たり前と思うけど)、そういう人がウザいときには僕は
「ニシン科の魚は好きですか?」
と質問してみることにしている。
本当に魚に一家言あるという人なら、まさかマイワシやカタクチイワシがニシン科であることを知らないはずがないので、この時点で?となってしまう人は残念ながら上っ面の「魚好き」だ。
そういう人は論外としても、「真の魚喰い」ならニシン科の魚たちのいわゆる「青い魚の風味」や強いうま味、皮下脂肪のコク、焼けた皮の香ばしさなどを愛してやまないはずだ。
ニシン科の魚にはいわゆる「下魚」が多く、最近値上がりが激しいとはいえ安価な惣菜魚であるイワシ、シンコの時期は極めて高値になるもののそれ以外の時期は全く相手にされないコノシロ、サビキに掛かってきては問答無用で投棄されるサッパなど、箸にも棒にもかからない扱いをされているものばかりだ。
小骨が多いという点も現代人に嫌われる大きな要素だろう。
だからこそ、そのうまさを知っているかどうか、日ごろから食べているかどうかということが「真の魚喰い」であるための一つのファクターではないかと僕は思っている。
御徒町に初夏を届ける和製ターポン・ヒラ
アメ横センタービル地下で売られている魚を買うのは、ほとんどがアジア諸国を出身とする人々で、特に中国人と朝鮮系の人々が多い。
彼らの母国で食される魚たちと似たものが多く販売されているこの空間で、初夏になると大量に入荷するものがニシン科の魚たちだ。
イワシやカタクチは通年入っているが、春になるとまずサッパが入り、次いでコノシロが入荷する。
同時期に吉池にもコノシロが来るが、そちらは大きくとも10㎝までのいわゆる「コハダ」なので、20㎝オーバーの成魚が大量に並べられているようすはアメ横ならではの光景だ。
そして5月の後半に満を持して登場するのが、日本のニシン科では最大の大きさを誇るヒラである。
ヒラはこのサイトにも一度登場しているが、有明海や瀬戸内海などの西日本以西の内湾に生息し、小魚を貪欲に食べるフィッシュイーターだ。
特に有明海ではルアーフィッシングの対象として知られており、70㎝近くなるその大きさと古代魚的な見た目から「有明ターポン」と呼ばれている。
鮮度の落ちの速さと、小骨というにはやや頑強な皮下埋没骨のせいで東京をはじめ東日本で食べられることはほぼ皆無で、もしかするとアメ横がもっとも東でヒラを売っている場所かもしれない。
これが入ると夏が来るんだなぁという気持ちになれる。
ヒラを捌く
僕の祖父母の住む岡山は、日本でこのヒラを最も珍重する地域と言って過言ではない。
岡山駅の駅弁「祭りずし」でも知られる郷土料理「ばらずし」には地元の魚介類の酢締めが入っているのだが、サワラ、ママカリ(サッパ)に次いで多く使われているのがヒラである。
冠婚葬祭の時の仕出し弁当には、高確率で甘酢で締めたヒラが入っている。
初夏の時期に魚屋に行けば大体置いてあるし、丁寧に下処理まで済ましているものも多い。
水揚げの多い有明海沿岸でも、大多数は岡山方面に送られるらしく漁師さんの中には「オカヤマ」と呼んでいる人もいるそうだ。
そんなわけで僕もおそらく幼少時から食べていたのだろうが、やはりメジャー度合いではママカリの方が圧倒的に高く、大人になるまでこの魚の存在を知らなかった。
アメ横センタービルで売られていることを知り、購入して食べてみたところ美味しさに感激、その後は今に至るまで初夏になると購入するものの一つになっている。
さて、ヒラを買うときはなによりも鮮度を見なくてはならない。
首都圏の人なら基本的にアメ横で買うことになると思うが、ここでは魚の鮮度はピンキリで目利きの力が非常に大切になる。
僕はほぼ毎日通っているので、単純にその日初めて売り場に出たものを買うようにしているが、そういうわけにいかないよ!という人なら以下のポイントに気を付けていただければ大体は問題ない。
1.大きなものを買う
小さいサイズのものは比較的ぞんざいに扱っているが、50㎝オーバーで単体売りされているものは丁寧に扱われており、氷を敷き詰めたトロ箱の中でビニールをかけて売られている場合が多い。
また、声をかけると冷蔵庫の中から新しいものを出してくれたり、鰓を開けて中を見せてくれたりする。
鰓が退色しているものは論外だが、こういう行動は鮮度に自信がある証拠なのである程度は信じていい。(日本人とは鮮度の良さの感覚が違うのではずれを引くこともある)
どんなに大きくても2000円を超えることはまれで、大きいほど脂がのっておいしいので思い切って一番大きいものを買うのがオススメ。
2.鱗が残っているものをえらぶ
ニシン科の魚にもれず、ヒラも非常に鱗がはがれやすいが、上下の鰭周辺はある程度までは落ちずに残っているので、それも一つの目安になる。
全身きれいにはがれてしまっているものは避けたい。
無事購入したら、できるだけ早く、可能ならその日のうちに捌いてしまいたい。
鱗は大きく落としやすいが枚数が多いので、腹部や鰭の際まで注意して、きれいに取り去る。
頭を落とし、腹下部の鱗が固く鎧状になっているところを切り落とし、内臓を出してよく洗う。
扁平な体型をしているので、中骨に包丁を沿わせるようにして丁寧に2枚おろしにする。
中骨の無い方を刺身にするのだが、このとき気を付けたいのが造り方。
ヒラの小骨は細長く硬いので、普通の平造りやへぎ切りにしてしまうと口の中で骨が暴れ、食べることができない。
そのため、2~3㎜幅のごく薄い平造りにする。
いくつかのサイトでは、刺身にするときに皮をつけたままにするとよいとも書かれているが、相当鮮度がよいものでないと皮が匂うので、アメ横で購入したものなら皮は剥がしてしまったほうがいいだろう。
包丁で皮を引くと美味しい皮下脂肪が一緒にはがれてしまうので、手で剥がすのがオススメだ。
薄っぺらい見た目からは想像ができないほどに脂がのっており、青魚の風味と脂の甘さが相まって非常に上品な味わいだ。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
なお、捌いていて鮮度に不安が出てきた場合は、塩で身を締めてから薄く切り、甘酢で締めてしまうと良い。
さっぱり爽やかで、夏らしい酢締めができる。
中骨のある方は骨切りをする。
ハモの骨切りと違い、皮から包丁を入れて中骨に当たったら止める。
よく砥いだ柳刃包丁があれば、非常に簡単だ。
包丁を入れる間隔は4㎜程度でよい。
骨切りをした身は煮ても焼いても美味しく食べられる。
個人的には塩焼きがオススメだ。
脂がじゅうじゅうとはぜて、皮目の香ばしさが食欲をそそる。
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
アメ横は魚介類のアンテナショップ
昨日のアメ横にはヒラのほかに各種のイシモチ、フナやコイなどの川魚、アゲマキガイなど、全国各地のローカル食材が並んでいた。
どれも基本的にはアジア諸国出身の客のために揃えられたものだとは思うが、多くは国内の各地から輸送されてきたものであり、図らずも都心に居ながらにして、各地の食文化に思いをはせることができている。
まさに「魚のアンテナショップ」と言えるのではないだろうか。
入り口が分かりにくく、また無事入っても飛び交う異国の言葉にひるんでしまうこともあるかもしれないが、これほど面白い場所は他にはない。
パンダを見た帰りなど、ぜひ少し足を伸ばして、この怪しいビルを訪ねてみてほしい。
コメント
私は瀬戸内は倉敷育ちですが、ヒラは知りませんでした。
ただ、コノシロの成魚は食べていました。
ツナシと言い、記事のヒラと同じように骨切りをして焼き魚で食べましたよ!
日本海でも関東でも新子はともかく、大きいコノシロ、ママカリは食べませんね。
まぁ、居酒屋で出て来る業務用スーパーの小肌はナカズミですが、しかもヌルの処理が悪いのか痺れるような生臭さに閉口です。
美味いツナシが食べたい!
なんと、倉敷では食べないのですか!それは全く知りませんでした。売られてると目立つ魚なので、ご存じなかったということは売られていなかったんでしょうね。
コノシロをツナシと呼ぶのは聞いたことがあります。
あれも加熱するなら大きい方がおいしいですよね。小肌とコノシロは、料理に関しては別の魚として考えた方が良い気がします。
いまでこそ狙って行くけど、初めての時ってたまたまあそこの地下に下りた気がするけどなんでだったんだろうw
ターゲットの少ない真冬に30cm前後のコノシロ爆釣モードとかもあるので機会あったら試してみてちょ。
それだけ包丁が使えるならバケツ一杯でも処理しきれるでしょう。
きっと何か匂いを感じ取ったんでしょうね…w
コノシロ爆釣!いいですね(≧≦)駿河湾のほうですごい釣れてるっていう話は時々聞きますけど、西湘方面でも釣れそうですよね
初めまして ヒラ。。。大好き岡山県人です。
丸のまま買ってきていろんな料理をします。
骨切りして煮付け
胃袋、肝はちょっとですが、浮き袋以降は煮付けにするとゼラチン化して最高
ご指摘の「腹下部の鱗が固く鎧状」この部分が脂もうまみも最高
チュウチュウうま味を吸ってください。
刺身
骨切りの要領で皮ごと薄切り
酢じめ
骨切りより厚めに5mmから10mmでカットし甘酢締め
1日置くと骨は消えてうま味だけ残ります。
一度お試しを