先日、のんべんだらりとTwitterの波を泳いでいると、とあるツイートが目に留まりました。
静岡県沼津産 つぼ鯛 入荷です。高級魚ですよ。刺身 焼き物 煮付けなど。 pic.twitter.com/zy6GbmJt9q
— 吉池 (@yoshiike_group) July 25, 2020
ツボダイ!
正確にはこの魚は近縁種の「クサカリツボダイ」だと思いますが、それにしたって鮮魚で手に入ることはまずない魚!! これは買いに行くしかないでしょう。
というわけで決死の覚悟で都心へと足を運び、ぼくは聖地・御徒町吉池へと向かったのでした。
クサカリツボダイとは
さて、ツボダイと聞いても最近の若い人はピンと来ないかもしれませんが、実はそんなに馴染みない魚というわけではありません。
というのは、ちょっとした魚屋やスーパーに行けば、冷凍品・加工品コーナーで「つぼ鯛」の名前を見るのは難しいことではないからです。
かつて日本で遠洋漁業が始まった1970年代頃に、「つぼ鯛」は深海底引き網漁で大量に漁獲され、加工品として盛んに流通されました。深海魚によくある「脂が良く乗る」魚のため、美味しい魚というイメージを持っている人も少なくないと思います。
正式和名ツボダイという魚もいるのですが、「つぼ鯛」として販売されていたものの多くはこのクサカリツボダイだったようで、こちらを「本つぼ鯛」と呼ぶ漁師、流通関係者もいるとのこと。他の深海魚同様に乱獲が進み、今ではかつてほどの漁獲はないそうですが、それでも決してマイナーな存在ではないのです。
なのになぜ今回、ぼくがここまで興奮しているのか。
実はこのクサカリツボダイは、深海魚でありかつ日本から離れた場所で漁獲されるため、基本的には鮮魚として流通することはないのです。多くの場合開きにされるか味噌漬け・粕漬けにされて流通するので「食べたことはあるけど実物を見たことはない」という人がほとんどの魚なのです。
今回入荷したものは、日本屈指の深海底引き漁の基地である沼津に水揚げされた、大変珍しい「近海もの」。これまでいろいろな市場を巡ってきましたが、焼津でチョウセンバカマを「ツボダイだ」って言って売りつけられたときも含め、全く近づくことのできなかった存在なのです。
このうれしさが伝わるだろうか。
吉池さんのTwitterアカウントで興味深い魚の入荷通知があると、だいたぼくもリツイートなどするのですが、この「ツボダイ入荷」のツイートをリツイートした結果ぼくが行く前に売り切れてしまったりしては泣けるので、今回に限っては自分が買うまでリツイートはしませんでした。情報戦は常に始まっているのだ……!!
実際、ぼくが着いたときにはのこり3匹しかなく、うち2匹を購入し持ち帰ってきました。
ちなみにクサカリツボダイの「クサカリ」とは魚類学者の草刈正氏にちなんだ名前だそうで、決して草刈正雄とは関係ありません。
クサカリツボダイを食べてみた
持ち帰ってきたクサカリツボダイ。
見た目はちょっとパンクロックなイサキという感じですが、
よく見ると腹側の鱗が鎧状になっており、
さらに頭部後方の鱗は板みたいになっています。なんかマツカサウオみたいだな。
内臓をとりだし、満を持して3枚におろしていきます。
ツボダイといえば、干物を焼くとバーニングするほどの強烈な脂の乗り。鰭周りのエンガワ部分のみならず、中骨近くの内部深くまで脂が差し込むほどなので、刺身はきっと絶品なはず。現にぼうずコンニャクさん所でも食味評価は★5つ「究極の美味」となっています。
さあ、その豊満な肉体をわが目に見せてみよ……!!
……あれ? なんか……パキっとしてプリっとして……脂、なくない?
あ、わかった、じゃあきっと皮下脂肪がすごいタイプなんだね。恥ずかしくないから脱いでごらん……
……さっぱりしとる……
アカーン! 全然脂乗ってないじゃん! どゆこと?
産卵期とか? いやでも産卵後のしぼんだ卵巣とかなかったし……
最大で50㎝になる魚だというので、今回のものは大きさが足りなかったのかな? いやでも「つぼ鯛の干物」はこれくらいのサイズでも、十分脂乗ってるもんなぁ……
まったく残念です。おいおいどうしちゃったんだ正雄……(だから関係ないってば)
ただ、この脂の乗ってない身でもお刺身にすると
メバルのような食感に旨味もあり、不味いものではありません。寿司ネタにするとすごくよさそう。
期待値が高すぎるからよくないけど、フラットな目で見ると悪い魚ではないですね。
味:★★★☆☆
価格:★★★★☆
ちょっと原因が分かんないので、今回の個体をもってクサカリツボダイの味の評価を定めるつもりはありません。間違いなくもっと美味しいはずなんだ。
いつかまた鮮魚に出会えた時は懲りずにトライしてみようと思います。
それはそれとして「鮮魚」としては極めてレアな存在でもあるので、今回勝ったもののうち1匹は餐場さんにお送りしようと思います。きっと何かの研究に役立ててくれるはず。
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