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茸本朗の真・野食堂Zチャンネル更新中!
茸本朗が出演しているシリーズ動画「茸本朗の真・野食堂」がパワーアップしてYoutubeに殴り込み!
多彩なゲストと変なものを捕まえたり、ヘンなものを食べたり食べさせたりしながら楽しくやっていく予定です。
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前回の続き。
エイのシュールストレミングことシュールストロァエを製造したところ、くさやそのものになってしまったわけですが、そうなるとこちらの
漬け汁はいわゆる「くさや汁」となっていることが推測されます。
くさや汁とは、くさやを製造する際に用いる液で、有益な細菌がいっぱい含まれている塩水ベースのドロッとした汁です。この中に魚を漬け込むと、その筋肉が分解されてうま味となりつつ、脂肪も分解されて強烈なにおいを放つわけです。
くさや汁自体もとてつもなく臭くとても食材とは思えないのですが、こう見えて食中毒の原因菌が棲息できないほど殺菌性が高く、また魚の食中毒の大半を占めるヒスタミンも分解されてしまうため、毒性は全くありません。
ビタミンが豊富で栄養価も高く、各種疾病の治療として引用されたり、傷口に塗ったりしたといいます。(現在もくさや職人の手は傷ついてもすぐに治ってしまうという)
いまぼくの手元にあるこの汁も、真夏の生ごみ置き場もかくやというかほりを放っているのですが、この仮説が正しければこれ自体を舐めても問題ないはず。いってみましょう。
ペロッ……
これは、くさや汁!
まあ厳密に言うとくさや臭に加えて若干の腐敗玉ねぎ臭が混ざっておるのですが、濃厚で旨味と塩気も強く、これに魚を漬けたら美味しくなってくれそうです。
ということで、これでくさやを作ります。
自家製くさや美味しいです
使うのは、東京湾の金アジ。
本当は脂があまり乗っていない「ムロアジ」や「トビウオ」のほうがくさやに向くと言われますが、まあとりあえずやってみよう。
腹開きにして流水で良く洗い、水気を切ってから
くさや汁に投入。
一晩漬けこみます。
取り出したもの。
すでにタンパク質が分解され、筋肉が透明になりつつあります。
これを流水で良く洗い、
水気を拭きとってから、干し網で干します。
夏場ならハエの大群がたかってきそうですが、真冬なので問題ありません。むしろ風下によその家の窓が来ないように注意しないと、また管理会社にブチ怒られちまう……(経験あり)
完成! においはマジでくさやそのものです。ここに至って謎の玉ねぎ臭もしなくなってきた。
これを焼いて食べるのですが、先日エイを焼いて連れからクレームが来たので外で焼きましょう。
焼けました。においはさらに弱くなり「なんかちょっとパンチの効いた干物だね」みたいな感じになりました。まあ臭いっちゃ臭いけど……
食べてみましょう。いただきまーす
……(≧〰≦)くさうまーい! こいつはグレートなくさやです。口に入れると、伊豆大島のフェリー乗り場の光景が脳裏にフワッと浮かびますね。
普通の干物の何倍もの強い旨味が噛みしめるほどに出てきます。自分の呼気が殺人的なにおいになりますが、この旨味の前には無問題。
せっかくなので、くさやを使った料理も作ってみましょう。
ほぐしたくさやを油でいためて、
そこにご飯と卵、ネギを入れてよく炒め、胡椒を振れば
くさやチャーハンの完成!
(≧∀≦)うまくならないわけがない
くさやの匂いは加熱でまろやかになり、コクとうま味だけが残ります。香港のハムユイやタイのナンプラーと同じですね。
くさや汁は手入れが大変だそうですが、うまく扱えば何十年もくさやを作り続けることができるといいます。ぬか床みたいなものですね。
うちのも大切に保管して、今後もいろんな魚でくさやを作ってみようと思います。
魚は「腐敗しない」食品?
さて、今回の一連の調理実験を踏まえ、ぼくは「魚ってなかなか腐敗しない食材だなー」と思いました。
ご存じの通り、食品に対して微生物や酵素が起こす変化のうち、人にとって役立つものを「発酵」、人体に害があり、役立たないものを「腐敗」と呼びます。
我々のような素人はよりシンプルに「食中毒を起こすもの」のことを「腐敗した食品」と呼ぶことが多いでしょう。
魚は時間がたつとそれこそ腐ったような匂いがするので、腐敗しやすい「足の早い食材」と思われるのは当然のことと思います。
しかし一方で、魚によって起こされる食中毒のほとんどは
①細菌(海水魚の場合腸炎ビブリオ)
②アレルゲン物質(ヒスタミン等)
③寄生虫(アニサキス等)
によるものです。このうち「腐敗」によって発生するものは②のヒスタミンくらいで、匂いや見た目の変化を起こすことはありません。
なのでいわゆる「腐ったような匂い」「ドロッと溶けた内臓」はそれ自体が食中毒の原因になるわけではありません。むしろこれらを旨味の源として活用したのがくさやであり、酒盗であり、魚醤であるわけです。
ヒトはかつてサバンナの弱者だった歴史から、鮮度の落ちた死肉から効率よく栄養を摂取できるように、肝臓で毒を代謝する能力を発達させたといいます。
そう考えると、我々が「腐った魚」を美味しく食べることができるのも当たり前である、とも言えます。
くさややシュールストレミングが美味しく感じるのは、いわば「人体の神秘」と言えるかもしれません。
魚を何もせず常温に放置すれば、表面では食中毒原因菌が繁殖し、筋肉内ではヒスタミンが生成され、内臓からは寄生虫が脱出を始めます(淡水魚なら芽胞形成菌も怖い)。それは当然。
しかし、調理前は鮮度をしっかり保持し、調理時には的確に塩や塩水を用いて水分含有率を調整してあげさえすれば、あとは素人が適当にやったとしても「腐敗させる」のは相当難しい、そう確信しています。
ぼくは発酵においてはズブの素人であり、プロから見たら危なっかしいことも一杯やってきたと思いますが、それでも魚関連で食中毒を起こしたことはほぼありません(1回サバの刺身であたったことがありますが発酵は関係ありません)。
ブログを見て「こいついつか死ぬぞ」と思ってくださっている方もいっぱいいると思いますが、こと魚に関しては腹を壊すことすら容易ではないな、というのが正直な感想です。
ま、とはいえね、みんなも気軽に試してみてよとはとても言えません(;´∀`)やるなら自己責任でお願いします。
ぼくは今後も気軽にいろんな発酵・熟成にトライしていきますよ。
コメント
基本的には「塩蔵」による乳酸菌発酵であって、納豆のバチルス菌と同じく最強の菌発酵故の毒性菌増殖が抑えられるせいかなぁ・・・<海水魚の食中毒が少ない理由
ワタを抜かないまま古くなった青背の魚は止めた方がいいっす。何喰ってるかわかったもんじゃないし。
アレルゲンがめっちゃ増えてるんで、それまで平気だった魚でもアレルギーを発症したりします。(傷んだサンマで実体験済み)
一度アレルギーを発症すると、同種の鮮魚でもアレルギー反応が出るようになるのはご承知の通り。
まあ、ブログを拝見してる限りすぐに捌いていらっしゃるんで余計なお世話ですが。
今度は淡水魚でやってみるとか?
或いは陸上の脊椎動物、と言うかお肉で。
魚を腐らすのは難しいですが中たるのは簡単なのが面白いですよね
先日妻の作ってくれた鰹丼…あったかご飯に鮮度落ち気味の鰹の刺し身を乗っけて放置して冷ましたと言う逸品で無事逝く事が出来ました( ´ ཫ ` )
調理法は正しく教えなければならないというわかりが得られて良かったと思いました…