魚食文化のパラダイス・岡山でマイナー魚の流通について考えた

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岡山にはほぼ1年ぶりの来訪となった。

岡南地区のランドマーク・児島半島金甲山

岡南地区のランドマーク・児島半島金甲山


両親ともに岡山・岡南地区の出身であったため、幼少時は夏と正月の年2回帰省し、児島湖渋川海岸で遊んでいた。
岡山には住んだことこそないが、転勤族だった自分にとって非常に馴染みのあるところでいわばルーツの一つだったのだ。


それなのに、そこで食べられている魚たちが非常にユニークであることを知ったのはほぼ大人になってからだった。

もちろんそれまでも、大人たちがやたらと「サワラ」なる魚を珍重することや(東京でサワラの刺身を食べることはまずなかった)
カニと言えばケガニ、ズワイガニそしてタラバガニだと思っていたのに、帰省すると妙ちくりんな菱形をしたカニが出てきたり(しかし美味い)
する事にちょっとした違和感を抱えることがあったのだが、当時は昆虫&鉄道少年であったためそれが何故かを知ろうという気にならなかったのだ。

大人になり、魚を追いかけて過ごすようになると、岡山という土地がいかに魚に恵まれていて、豊かな魚食文化を持つ土地であるかということに気づいた。


ついでに、年2回家族4人を新幹線で帰省させていた父親の偉大さにも気づいた。
貯金で汲々の僕らに岡山までの新幹線は高すぎたので、LCCで高松に飛び、瀬戸大橋を渡って南からのアプローチとなった。


台風一過の晴れ空の下、瀬戸内の魚をはぐくむ「日本の地中海」にはまだ少しだけうさぎが跳ねていた。

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「とるに足らない雑魚」が当たり前に食べられている素晴らしさ

「連れを祖父母に合わせる」という人生の一大イベントを終えて、岡山中央卸売市場翔さんと天満屋ハピータウンで落ち合ったのは、当初の約束から2時間近く遅れた15時前のこと。
平謝りの僕らを温かく迎えてくれた彼は予想外なことに年下の方だったが、状況にへこたれないハートと強烈なプロ意識を持つ好青年で、話しているだけで尊敬の念が湧くような素晴らしい人だった。
日々「戦場」となるセリのようすや、鮮魚を扱うことに対する自信と誇り、そして変わった魚を楽しむ心の余裕。
話も面白く、あっという間に意気投合して数時間も話し込んでしまった。

ハピータウンを出た後、市場内を軽く案内していただき、翌朝の再会を約束して僕らは別れた。

一般人は入れないセリ場

一般人は入れないセリ場




鷲羽山ハイランドで絶叫マシン(スカイサイクル)に乗り、
シートベルトよりしょぼい安全ベルトを撒いて、地上16mにあるレールの上で自転車をこぐというオンリーワンな絶叫マシン

シートベルトよりしょぼい安全ベルトを撒いて、地上16mにあるレールの上で自転車をこぐというオンリーワンな絶叫マシン


翔さんオススメの王子が岳レストハウスで夜景を眺めて、帰路についたのは22時過ぎ。
本当ならどこかでばら寿司なりデミカツ丼なりを食べていこうと思っていたのだが、当然どこのレストランも空いておらず、仕方がないのでスーパーを巡って食べ物を買って帰ることにした。
その際にちらりと鮮魚コーナーを覗いて行ったのだが、どこのスーパーでも、東京の市場では見られない魚たちの姿を確認することができた。
このサイトでも何度か登場しているヒラ

このサイトでも何度か登場しているヒラ


岡山ではイサキ科の背鰭の目立つ魚はみんな「こしょう鯛」か「たもり」

岡山ではイサキ科の背鰭の目立つ魚はみんな「こしょう鯛」か「たもり」


瀬戸内と言えばやっぱりキュウセン

瀬戸内と言えばやっぱりキュウセン


ヒイラギも売られていた

ヒイラギも売られていた

!!

!!


個人的に一番のヒットは「石もち」
これはテンジクダイという魚なのだが、僕ら関東の釣り人にもなじみ深い「金魚」ことネンブツダイの近縁種である。
名前の由来ともなった硬い耳石を持つ頭を取り去り、粗い鱗を取った状態で売られている彼らを、から揚げやネンブツダイにして食べるのが当地流。
居酒屋でも定番メニューとなっていることがあるそうで、翔さんも大好物なのだそうだ。

いずれの魚も、関東ではスーパーに並ぶことはおろか、流通に乗ることすらままならないような小魚たち(成魚だけど)である。
こういった魚たちを大事にしているのが岡山含む瀬戸内の素晴らしいところであり、かつどこでもそうあるべき理想の形だと僕は信じている。
どんなに正しい形で魚を獲っても、それが売られないのではただの虐殺に他ならないのだから。


僕は、こういった「とるに足らない」やつらが食卓にふつうに並び、食文化に組み込まれていくような社会を創っていきたい。
いや、そこまで大仰でなくとも、こういった魚を食べたいという人のところまで届くような仕組みを、みんなで一緒に考えていきたい。
改めて、その思いを強くした。

瀬戸内魚のテーマパーク「岡山中央卸売市場」の魚を買おう!

市場の入り口

市場の入り口


27日朝、前の日に教わった通りに車を進め、翔さんの勤務する「豊栄水産」の店舗を訪れた。
左が翔さん

左が翔さん


7時ごろまでは話ができないかもしれない、と言われていたが、6時半ごろ伺うと既に店頭で待っていてくれた。
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「台風の影響か入荷が少ない」と翔さんは残念そうな顔をしているが、たっぷりと氷の敷かれたトロ箱(東京では水氷につけて保存するが、こちらでは下氷の上に並べる)の中にはマナガツオメイタガレイ、ハモ、ヒラといった瀬戸内ならではの魚たちがたくさん並んでいた。

それらはすべて鮮度が抜群に良く、マナガツオやヒラなど鮮魚が落ちやすい魚たちでも身がガチガチにいかっている。
マナガツオに至っては鱗がたっぷりとついたままだ。
NCM_1668
たとえどれだけ気を配っていても、これらの魚は東京に来た時点で相当へたってしまっているので、その本来の味を楽しむのは通常の小売店店頭購入だと難しい。
先日翔さんに直送してもらったものはかなり美味かったので、流通のやりようはあるはずなのだが…


また、今回はいわゆる「(首都圏での)マイナー魚」はヒラくらいで、しかも当地では人気のある魚とあって「珍魚」とは呼べないのだが、もし様々な珍魚が入荷した場合は、大体の場合まっすぐに豊栄水産(の翔さん)のところに届くのだそうだ。
過去にはミシマオコゼカエルアンコウなどを扱ったこともあるそうで、店頭に置かれた簡易生け簀は要チェックポイントとなっている。
訪問される方は気を付けてみてほしい。


これら珍魚について「二足三文で買って捨て値で売っているんじゃないか」というイメージを持たれている方がいらっしゃると思うが、翔さんはここもしっかりとしたプロ意識を持って「正しく流通させて、売り手と買い手の利益を最大化する」ための仕入れ・販売をされていた。
詳細な例は割愛させてもらうが、もし個人で注文されるにあたって
「こんな雑魚ばっかり買って悪いなぁ」
とか
「ふっかけられるんじゃねぇの?」
みたいな不安をお持ちの方は、全く気にされる必要はないだろう。
サイトの名をかけて保証したい。(そんなものがなんの役に立つかというツッコミは置いといて)

晩御飯は自家製ばら寿司 がらえび欲しかった…

晩御飯は自家製ばら寿司 がらえび欲しかった…

「卸売市場」の立ち位置をはっきりできないものか

岡山中央卸売市場は広くて大きく、天井が高くて風通しがいいので、僕のホームグラウンドである横浜中央卸売市場や川崎地方卸売市場・南部市場よりずっと広く見える。
しかし魚の入荷数の少なさが影響しているのか、客の数は多いとは言えなかった。

ハガツオ どれもめちゃくちゃ美味しそうなのに

ハガツオ どれもめちゃくちゃ美味しそうなのに


「魚離れのせいか最近客足が鈍い」と翔さんは言うのだが、個人消費者としてはやはり「一般購入客」への積極的な開放が必要ではないかと思っている。
中央卸売市場における一般客の扱いというのはあいまいで、買う方としては怖くて近寄れないという部分がどうしてもあるのだ。


まずはっきりしていることは、一般客はセリには参加できないので、セリ会場に入ることはできない。
そうでなくても戦場なので近寄ることなどできないと思うが…
その後、セリ落とした魚を販売する仲買さんから、一般客が購入することは基本的には禁止されてはいない
ただ、多くの卸売市場では「業務用のホールセールだけで、小売りはしません」というルールが設けられている。
これはおそらくは小売店舗・業者への配慮なのだろう。

ただ、時代はそういうままではいかない。
僕の勤める出版業界では、再販制度や取次さんの存在など、書店と販売慣習を守るしくみが強固に構築されてきたが、eコマースの一般化やアマゾンの登場などにより、出版社側が書店に配慮し続けていては共倒れになってしまう可能性が高くなってきた。
食品の流通、とくに鮮度保持が何よりも大切な生鮮品については、他の流通場面よりももっと急激でドラスティックな変化が必要になってくるのではないだろうか。


経なくてはならない段階が増えるたびに、廃棄のリスクの高い珍魚・マイナー魚は流通を外れる可能性が上がる。
流通に乗らない魚たちだけでも、卸売市場で自由に販売・購入が行えるようになればいいのにと思うのだが、皆さんはどう考えるだろうか。



今後、珍魚・マイナー魚が入荷するたびに送ってもらえるよう、翔さんにお願いさせてもらった。
今後は月2回程度のペースで、西日本各地から集まる珍魚が我が家に届くようになるだろう。
当然、送料はこちら持ちだが、キロオーバーのヒラが800円程度、ハモがトロ箱で500円!(8/27の価格です)という豊栄水産さんから届くマイナー魚たちが我が家の会計を圧迫する可能性なんて、まさに微粒子レベルである。

これで500円!

これで500円!


今後、このサイト上でもたびたび紹介させてもらえるだろう。
お好きな人は楽しみにしておいてくださるとうれしい。
(もちろん野食もいっぱいやるよ!)

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魚介その1(魚系) 魚市場
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コメント

  1. rennzann77 より:

    テンジクダイ、故郷熊本でも物産館で売られてました。
    この時期は好物のコノシロの細切りの刺身が並ばないのが誠に残念でした。

    • wacky より:

      熊本でも食べるのか…初耳です。内湾性が強いんでしょうね。
      コノシロの刺身、僕も大好きです!東京ではコハダまで、ナカズミもほとんどなく、ましてやコノシロが売られることなど皆無で…。。
      自分で釣ろうにも、あんまり数がいないんですよね。
      福岡じゃどこの漁港でもアホみたいに釣れたのになぁ

  2. あね より:

    天満屋ハピータウンのくだりで涙がちょちょぎれる姉。・゚・(ノД`)・゚・。

    あのころウエスギさんでばあちゃんが買ってくれたいろんなお刺身の味をちゃんと覚えておけばよかった。。
    今おもいだそうとしてもバラ寿司の酢味ばっか出てきてむかつく

    • wacky より:

      まぁまぁ、ばら寿司のあの酸味も大人になるとなかなか乙なものよ。
      新幹線乗るときとか、あれとビールが無いと旅情に欠けると思うようになったw

      熊本なら、瀬戸内と似たもの手に入りやすいんでないの?

  3. shari-gin より:

    三度?四度?お邪魔します。
    批判的とも取れるコメを送って、気分を害されていなければ良いのですが…

    今回コメさせて頂いたのは↓
    >僕は、こういった「とるに足らない」やつらが 食卓にふつうに並び、食文化に組み込まれてい くような社会を創っていきたい。

    この一文に我が意を得たり!!という感じだったからです。
    こういうステキな心意気、ずっとずっと持ち続けて頂けたらと僭越ながら思っております。

    ネンブツダイ、西伊豆の方でも“あかるさん” と呼んで珍重する食文化があったように記憶しております。

    • wacky より:

      そうでしたか。こちらも誤解があったようで、申し訳ないです。

      関東でも、岡山のような「地場の雑魚を大事にする」文化があればいいなとずっと思っています。極端な話、もし豊栄水産が近所にあったら、釣りにいかなくても済むかもしれないです(^_^;)

      西伊豆でもですか! それは知らなかった、ぜひ売られてるシーンを見てみたいですね!

  4. Mr.苦労人 より:

    はじめまして。
    ネットを徘徊していてこちらのサイトにたどり着きました。
    岡山中央魚市場懐かしいです。
    実は私市場の仲買で働いていました。
    もちろん豊栄さんも良く知っております。(私のいた会社の裏になります)
    今は沖縄に近い鹿児島の離島にいますが、何年たっても岡山の魚が恋しいです。
    滅多に帰省出来ませんが、実家に帰るとサワラの刺身、ゲタの煮つけは絶対に食べて帰ります。
    瀬戸内は魚種の宝庫です。
    これからも瀬戸内の魚を紹介していって下さい。

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