流通可能なワックス魚「オオメマトウダイ」とザルすぎる食品表示法について

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唐津の某スーパーマーケットで何か変わったものないかなーと探していると、とあるパックが目につきました。

一見何の変哲もない総菜用切り身魚ですが……怪しい臭いがプンプンします。
魚にある程度詳しい人ならきっとすぐに違和感に気づくと思うのですが……


この干物、「マトウ鯛のみりん干し」とのことですが……
マトウダイを食べたことがある人はわかると思うのですが、あれ、肝臓に脂肪をため込むタイプの魚なので、身にはあまり脂がのらないんですよね。
なんですけどこれ、ご覧の通り脂ののりがすごい……というか、異常です。

それから、皮がちょっと黒すぎる。マトウダイは銀に近いグレー~茶色なので、明らかにおかしいです。
面白そうなので購入してみました。


持ち帰り、パックを開けて確認してみると

やはり。マトウダイとは似ても似つかない、真っ黒でざらつく質感の表皮があらわになりました。
さすがにこの面を上にして売ることはできないんだろうな、マトウダイじゃないってバレちゃうから。

さて、マトウダイじゃないとなるといったい何者なのか。
調べてみると「クロマトウダイ」という流通名がヒットしましたが、これは標準和名ではなさそうです。
学名で検索しようか……あ、こいつだな。

オオメマトウダイ Allocyttus verrucosus

一応マトウダイ目ですが、オオメマトウダイ科というグループに属しており、マトウダイよりもずっと深いところに棲む深海魚とのこと。
特徴は黒い表皮と大きな目玉(切り身じゃわからんけど)そして脂肪ノリッノリの身。

しかもこの脂肪、なんとその大部分がワックスだといいます。

バラムツとアブラソコムツで人生を台無しにしかけました:野食ハンマープライス的 自然毒のリスクプロファイル②
YouTubeやってます!! 野食ハンター茸本朗(たけもとあきら)ch ブログ面白いなと思っていただけたら、ぜひこちらもご覧くださいませ!! 昨日の記事で「ドクヤマドリは2切れまでなら食べても大丈夫らしい」といった旨のこと...

深海魚は浮力を得るために体脂肪を様々な形でため込みますが、その中でも鉛直移動を活発に行う種はワックスを多くため込むといわれています。
マトウダイ目に属する魚の脂肪分がすべてワックスであるというわけではない、ということはご留意ください。

それはそれとして、ワックスを含有する魚を食べ過ぎると不随意に肛門から漏れ出て大変なことになります。あるいは下痢などの良からぬ影響が出ることがあります。
バラムツやアブラソコムツはこのため、食品衛生法で流通が禁止されています。
オオメマトウダイの仲間でも油漏れ被害が出ることはあるようで、以前ブログ読者の方から「マトウダイ食べたら下痢したんだけど」という連絡をいただいたことがありました。

No.630 オオメマトウダイによる下痢症状(神奈川県)

じゃあなんでオオメマトウダイを売ってるのか、売っちゃダメなんじゃないかと思う人がいると思いますが、実はオオメマトウダイは加工用としての販売は許可されているのです。

東京都通知により措置が定められた魚介類(厚生労働省通知により措置が定められた魚介類を除く)

ワックスの含有量がバラムツやアブラソコムツに比べ圧倒的に少ないこと、1匹があまり大きくないこと、以前から食べられてきたことなどが理由だと思われます。
それでも、加熱によって脂が落ちることを前提としたルールなので生での提供はダメです。
また、加熱品含め販売の自粛を呼び掛けている自治体もあるようです。

川崎市中央卸売市場食品衛生検査所 食品衛生だより

衛生管理士の皆さんはこのへんの情報をすべて頭に入れて日々見回りをされているのですね……頭が下がります。

いずれにしても、唐津市では加工用オオメマトウダイの発売はOKです。
ぼくがむしろ問題だと思うのは、これを「マトウ鯛」と言って売ってることだと思います。
標準和名マトウダイはワックスを含有せず、世界中で安全に食用にされている高級魚。とくにフレンチの世界では高い需要があります。
それと間違ってこのオオメマトウダイを食べ、油漏れを起こしてしまったら……だれが責任取るの? 今のルールでは誰も悪くないよ?

なので、オオメマトウダイやそのワックスが悪い(つまり食品衛生法が悪い)というよりは、致命的である表記のズレを許してしまっている食品表示法上の問題じゃないかといえるわけです。
そういうわけで皆様、加工用のマトウダイを食べられることがあればどうぞお気を付けください。とくに、ぼくみたいにほんの少量のバラムツでも油漏れを起こす体質の人は……!

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オオメマトウダイを食べてみた

まあそれはそれとして、せっかく手に入れたので食べてみようと思います。
グリルでじっくり、焦がさないように気をつけつつ、脂を落とすように焼き上げていきます。

黒い……
焦げたわけじゃなくて皮の色なので仕方ないですが。

いただきマース


……(`・〰・´)フーム
これは……ギンダラ!


魚体に含まれるワックスは、魚臭さが全くないので生で食べるとすぐにそれと分かるのですが、加熱すると普通の脂肪(グリセリド)との違いがいまいちわからなくなります。
このオオメマトウダイは、もともとの身質も相まって実にギンダラっぽい味に仕上がりました。
正直、美味しいです。でもまあギンダラかアブラボウズの方がいいな……

味:★★★★☆
価格:★★★☆☆

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魚介その1(魚系) 深海魚
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野食ハンマープライス

コメント

  1. お尻から器械油 より:

    いつも楽しく見てます
    ところで私もこの魚を食べてお尻からブッとラー油がでて粗相をしてしまいました
    美味しくて皮ごと三人前ほど食べてしまったせいもあるかもしれませんが
    それからは怖くて食べてません

  2. パトリオット より:

    私も本日やらかしました…
    このブログのお陰で原因がわかって大変助かりましましたよ。
    ちょうど一昨日食べた魚の干物がオオメマトウダイだったようで、彼女とデートしてる時に脂が出ましたよ(´;ω;`)
    道民という事もあり、マトウダイに馴染みがなかったためまんまとスーパーに騙されました。

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