ニホンザルを食べてみた①:知識と前提と味見

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知り合いの猟師さん(諸事情により名前は伏せます・過去にこのブログでご紹介したことはないです)から「茸本さんサル食べます?」という連絡が来たのは、先々週のこと。
サルか……いつか口に入れる日が来ようとは思っていましたが、どうやら今日がその日のようですな。


いただいたのは、有害鳥獣駆除によって捕獲されたニホンザル。


黄色い脂肪がこれまでにないカンジを出しています。人間の脂肪も黄色いと聞くし、いかにも「霊長類」って感じですね……
気合いを入れてかかりましょう。

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サルって食べていいの? その①:感情編

さて、古よりあまたの人々が「サル食べたよー(≧ω≦)」と無邪気にネット上に記し、その結果あちこちから投げつけられた石で傷つき、燃え上がる炎に包まれて強制退場させられてきました。
あらゆる獣の中でも一番可燃性が高いもの、それがサルなのではないかと思っています。


なぜこんなに燃えるのか、それはやはりサルが我々ヒトと同じ霊長類に属する生き物だからでしょう。

現在ではその農作物に与える被害の大きさが周知のものとなり、年に1万頭以上駆除されているニホンザルですが、それでも有害鳥獣駆除への反対活動は相当多いと聞きます。
気分的にも「シカを駆除する」のと「サルを駆除する」のでは、前者のほうが心理的な抵抗が少ないと感じるのではないでしょうか。

ただこれも「シカは食材になるけどサルは食材にならない」と思われているから、という理由があるかもしれません。確かにシカは狩猟鳥獣でニホンザルは非狩猟鳥獣ではありますが、猟期外の有害鳥獣駆除においてはここの差異はありません。

念のため、神奈川県環境農政局の自然環境保全課に問い合わせて確認してみましたが
「捕獲後にサルを他人に譲り渡すことができるよう捕獲等許可を受けている人が捕獲したサルを食べることは、法律・条例上問題はない」
との回答をいただきました。
(ついでに「食レポをオンラインで公開すること」も問題ない旨お墨付きをいただいています)


結局、気分ということなんだろうな。
サル以上に「食べる人に嫌悪感を覚えやすい」生き物っているかねぇ。。イヌとネコくらいかな、きっと。

サルって食べてもいいの? その②:健康編

とここまでは他のどんな野生動物とも同じですが、サルの場合はもうひとつ、食べることがはばかられやすい理由があります。
それは「病気になるリスクがほかの野生動物より高い」ということ。


皆さんは中国の「サル脳食」という文化について聞いたことがあるでしょうか。生きたサルに麻酔をかけて頭を切り開き、脳を露出させてそれをスプーンですくって食べる、というものです。
これ、現在は法律(?)で禁止されてるそうなのですが、その理由の一つに「クロイツフェルト・ヤコブ病の原因となる可能性があるから」ということがあったと聞きました。
異常なたんぱく質「プリオン」を摂取することによって引き起こされるこの病気は、脳みそがスポンジ状になりアルツハイマー様の症状が出て死に至るという極めて恐ろしいもの。かつて世間をにぎわせた狂牛病と(感染する生き物は違うけど)極めて似た病気です。

ウシに、同じウシ(で作った肉骨粉)を食べさせたことで狂牛病が発生したのと同様に、ヒトが同じ霊長類のサルを食することでクロイツフェルト・ヤコブ病が発生するわけですね。あなこわやこわや。


ほかには、霊長類が原因となった人間の病気としてはエボラ出血熱などの出血熱がありますね。HIVもそうなのかな。
ともかく「ヒトと近い」というのは、人畜共通疾病に感染する可能性も高くなるということ。これはイノシシやシカ、クマなどほかのジビエにはないリスクといえそうです。


これらのリスクについては、科学的な見識で対応していくしかないでしょう。
まずクロイツフェルト・ヤコブ病ですが、原因となる異常プリオンは神経系に蓄積しやすいそうなので、脳や脊髄は食べないほうが良いでしょう。
これまで、ジビエを貰ったら大体骨でラーメンを作ってきましたが、サルについてはそれはやめたほうがよさそうです。

それから論文によると、タンパク質であるプリオンは134℃で18分加熱すると失活するらしいです。(Collins SJ, Lawson VA, Masters CL (2004). “Transmissible spongiform encephalopathies”. Lancet 363 (9402))家庭料理で肉をこの温度まで持っていくことはできないので、プリオンを100%失活させることはできませんが、ある程度は効果があると思います。
神経系や骨髄を丁寧に除去し、筋肉だけをしっかり加熱して食べれば、リスクは相当量低くなるんじゃないかな。


出血熱系の感染症は、ハンター自身が現時点で罹患していないので問題ないと見ます。HIVについては、-30℃で冷凍されていたニホンザルの体内に免疫不全ウイルスが存在し、それが調理時に突然変異し、ヒトに感染するものになるという可能性は……どうなんでしょう、極めて低いもののように思います。

ということでまあ、理屈的にも食べて問題ないんじゃないでしょうか。あとは食べる人が逐次リスクを検討していくしかないと思います。
おれは食う、苦情は受け付けない。

とりあえず味見してみた

今回いただいた身はこのように

頭と手足、内臓を切除した状態で縦割りになっていました。


これをモモ、ウデ、肩肉、バラ、ハラミに切り分けて


一口大に切ってグリルでよく焼いて、味見してみました。
味付けは塩だけ!

いただきまーす……

……
……(・ω・)うーん……
肉質は悪くないですね。赤身の牛肉みたいな風味と繊維で、硬さはかしわ肉のよう。
低温でじっくり火を通したら美味しくなりそうだけど、上記の事情からそう言うわけにもいかないのが難しいところです。

そしてくだんの脂肪ですが……ちょいと臭いな。
食べたことがある人にしかわからない例えを使うと、タヌキ肉のあの匂いです。あらってない犬の臭いを希釈したような……
まさかサルからイヌ臭さを感じることがあるとは思いませんでした。雑食性というくらいしか共通項無い気がするけど……


実は以前ネット上で「サルは美味しい」と聞いたことがあり、割と期待していたので正直ちょっと拍子抜けでした。
ただ、同じ個体の半身を自身で食べられた猟師さん曰く「良い牛肉みたいでとても美味しかった」とのことだったので、もしかすると冷凍保存で臭いが出るタイプの肉なのかもしれません。
そもそもぼく自身、獣臭に敏感かつ苦手なタイプというのもあります。今回の試食で「サルは臭い」と決めつけるつもりは全くありません。


とはいえ噛み続けるとちょっとしんどくなってきました。これは調理にあたりいろいろな工夫が必要そうです。
知恵を絞ってやっていきますか。。

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肉・シビエ
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野食ハンマープライス

コメント

  1. 釘煮 より:

    おおー、美味しそうですね
    ジビエというかなんというか、サル食はあまり見かけないので興味深く拝見させていただきます

  2. ただの通りすがり より:

    ご存知かもしれませんが、千年以上さかのぼれば、日本では、猿肉を食っていた時代があるんですよね(朝廷が出した肉食禁止令に、猿肉が入っている)。
    それと、獣臭ですが、分量が分からないのですが、椿の葉が効くかもしれません。以前に読んだ雑誌で、跳ねられて死んだタヌキの肉も、これで食べられるという記事があったので(一緒に、煮込むということだったかな)。

  3. ジビエ初心者 より:

    お邪魔致します。

    田中康弘氏や平坂寛氏、または貴殿の書籍を愛読させて頂いてますが、ニホンザルの記事を見るのは初めてですね。唯一、サバイバル登山家の服部氏の書籍で、それを食べれば○○○が三日三晩✕✕✕✕✕✕(察して下さい)になると勧められた、という話がありました。

    それ以外だと、高野秀行氏の「辺境メシ」で、ゴリラやチンパンジーを○○○(哺乳類系は荒れやすいので)というエピソードがありましたね。(意外にもクセは少なかったそうです。固かったらしいですが。)

    食材をパッと見た印象では、やはり人間の焼○○のイメージに近いですね(特に脂肪の黄色さなどが・・)

    非難を浴びかねないリスクを承知で、敢えて記事を掲載されるあたり、やはり覚悟と見識が段違いだなと、改めて敬意を表します。

    ところで、タヌキの肉の臭さの原因は、夏から秋にかけての主食(または副食レベル)である、カブトムシ及びカメムシが原因では?と疑ってますが、実際のところは如何なのでしょうか?もし予測が当たっていれば、ニホンザルにも何らかの共通食材があるのかも知れませんね。

    霊長類系の記事は本当に珍しいので、次回も楽しみにしております。

    • 茸本 朗 より:

      ありがとうございます。
      三日三晩✕✕✕✕✕✕ですって……!? おかしいな、そのたぐいの変化はとくには起こりませんでしたが……

      >タヌキの肉の臭さの原因は、夏から秋にかけての主食(または副食レベル)である、カブトムシ及びカメムシが原因では?と疑ってますが、実際のところは如何なのでしょうか?

      なるほど虫ですか……その発想はありませんでした。あの香りは独特で、脂に染みついていることを考えると、昆虫のように脂が多い(そして臭い)ものを餌に食べている可能性は十二分にあると思いますね。とても勉強になります。

  4. たいめん より:

    >サル以上に「食べる人に嫌悪感を覚えやすい」生き物っているかねぇ。。

    …ヒト(小声

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