昔、イングランドの友人とサッカーの話をしていて、フランスの話になると、すぐにfroggy! とキレだすので面白がってよく話を振って遊んでいたのだが、ライミー共英国人がなぜフランス人のことをそんな風に呼ぶのかというと、彼らがカエルを食べるからである。
食べてるもので人を馬鹿にしようとすると「穴二つ」状態に陥るというのが世の常で、フランス人がカエルやカタツムリを食べることも、日本人が海草を食べることも、英国人が英国料理を食べることも世界的には笑いのタネにされてしまうのだから、他国の食文化を尊重して機会があれば賞味し、その国に思いをはせるというのがより生産的な在り方ではないかと個人的には思う。
だからもし自分がフランス人だったら「このウナギのゼリー寄せ野郎!」とか「英国料理!」とか言い返していたかもしれないけど、残念ながらどちらの国の食文化も愛している日本人だったのでゲラゲラ笑いながらスルーしたのだった。
カエルは高級フレンチ食材やで
さて、というわけで今回のネタはカエルであります。



この子たちのパパです
なんで話の枕でこんなに尺を取ったのかというと、カエルってフランスでなくてもありふれた食材だと思ったので、何の前置きもなく「カエル食ったやでー」って話をしても面白くないからと考えたからだ。
アメ横でも一昨年くらいまで生体を売ってたし(←法律違反)いまでも冷凍品が容易に手に入る。
ジョースターさんご一行だって香港でカエル食べてるし。
ジョジョのせいでカエル料理と言えば中華! と思っている人が多いようだけど、フランスでもその昔から美味しく食べられてきた。
僕は大学3年生のときに、フランス料理のレシピを翻訳してフランス語を学ぶという授業を取っていて(そのせいでワインの輸入会社に新卒カードを捧げることになったのだけど)様々な場面でgrenouilleという単語を見かけたし、ごく当たり前に食材として認識されていることが理解できた。
そんなフランス人の中でもカエルを一番愛していると思われるのが、「美食の都」リヨンを抱え、世界的な高級ワインの産地として知られるブルゴーニュの人々である。
市場に行けば串に刺したカエルのモモ肉が売られ、レストランのメニューにも入る。
生のカエル肉は5000円/㎏ほどもする高級食材で、その料理に合わせるのは泣く子も黙るブルゴーニュワインだ。
むしむしした梅雨の雨上がりの夜、涼しくなり始めた夜風を浴びながら飲む、適温に冷やしたブルゴーニュの厚みのある白ワインはこの世で最も美味しい酒の1つだと思う。
おりしもセラーに1本転がっていたマコンヴィラージュが飲み頃なので、これに合わせる肉を得るべく川辺に赴いた。
ウシガエルのつかまえかた
さて、フランスで食べられているのは実はトノサマガエル(日本のトノサマガエルと近縁ではない)らしく、市場で売られているものも焼き鳥に毛が生えたようなサイズのものだ。
日本でいうとアカガエルとかヒキガエルくらいのサイズ感である。
多摩川のごく近くに住んでいる僕の自宅の周りには、この時期になるとアズマヒキガエルが大量に出没して街灯に集まる虫を食べている。
彼らを捕まえて食べるのも悪くないが、ペット代わりに可愛がっているうちの連れからクレームが出そうだし、何より食べ出が無いので止めておいた。
食べるならやはり、ウシガエルに勝るものは無い。
ウシガエルはご存じ特定外来生物で、餌として導入されたアメリカザリガニとともに、日本各地の湖沼の生態系に多大な負荷を与えている生きものだ。
そもそも食用目的に導入され、結果として悪影響ばかりが注目されるようになったという点ではブラックバスなどと同じ。
こちらはそれに加え、バカでかい鳴き声による「騒音公害」の要素もあるのでさらに厄介者扱いだ。
ちなみに僕はよく隠し芸でウシガエルの鳴き声のものまねをやるのだが、ごく一部の層にしかヒットしないので不満に思っている。
喉の奥に鳴嚢(鳴き袋)をイメージして音を出すとうまくいくので、ご興味のある方はぜひどうぞ。
閑話休題。
鳴き声がうるさいウシガエルだが、この声のおかげで生息位置を突き止めやすいので、実のところ野食ターゲットとしては初心者向けだと言える。
だいたい水辺から1m以内のところでボォボォ鳴いていて、足音を立てて近づくと「ベッ!」という声を上げて水に飛び込むので、どこにいたのかすぐにわかる。
夕暮れから盛んに鳴きだすので、今の時期ならまだ明るさの残る19時ころに川沿いをのしのし歩いていれば、かんたんにポイントを見つけることができるだろう。
ポイントを見つけたら、完全に暗くなるまで少し待つ。
僕は今回釣り餌用のザリガニを捕獲する予定もあったので、ガサをやりながら夜を待ったのだが
この通り、ひと網で大量のウシガエルのオタマジャクシが網に入った。
もう少し大きくなったものなら美味しく食べることができるのだが、このサイズだとどうしようもないのでスルーした。
夜。
川岸のガマの茂みをかき分けて、隙間からそっと覗いてみると
いたいた。
彼らはまだ光が残るうちは警戒心が強く、目が合うとあっという間に水に飛び込んで逃げてしまうのだが、完全に夜が更けると警戒心が薄れるのか、ある程度容易に近づけるようになる。
ここで適当なルアーを目の前に落としてやればすぐに食いつくのだが、生まれながらの無鉄砲で小さなころから損ばかりしている僕はこういう釣りがヘタクソなので、あくまで猪突猛進スタイルに手網で突っ込むことにした。
息を詰めて、一歩づつそーっと近づき、タモ網の間合いに入っても焦らず、ゆーっくりと上から網を近づけて……
かぶせる!
獲ったどー!!
……あれ? なんか動かないなこれ。
死んでる……?
ちょっと地面に置いてみよう。



ぅわっ逃げた! この野郎死んだふりしてやがったな!
動きこそ緩慢だが、一足で2メートルくらい飛ぶことができるので逃がすと厄介だ。
恐ろしい跳躍力で網も破けてしまったが、何とか再キャッチ。
……だからなんで急にそんなにやる気なくすのってば……。
とこんな感じでドタバタしながらも、たてつづけに4匹確保し、十分な量を得て帰路についた。
ウシガエルでフレンチの逸品を仕立てよう
逃げられないように脊椎をハサミで切り、活け締め状態にして持ち帰ってきたウシガエル。(特定外来種なので生体での移動は禁止だよ!)
締める時にちょっと鳴くのでウっとなるが、ミドリガメと比べればいくぶんと罪悪感は薄い。
これも食材としての認知度の差によるものだろうか。
まったく人間様の勝手というやつは。。
捌くのは実に容易で、脊椎の切断箇所から指を入れて頭を折り取り、胴側の脊椎を持って下に引っ張ると、靴下を脱ぐように簡単に皮が剥け、肉がとれる。
立派な肢の鰭も、軍足を脱ぐようにぺろりと剥ける。
フランスではカエルはもも肉だけを食べるものとして認知されているそうで、今回はとりあえず後肢だけを切り出して、あとは別の料理用に冷蔵庫にしまっておいた。
モモだけでもこのサイズ。
この筋肉があの足の力を生み出すのだ。
ここに塩コショウをし(激しく動くので注意)小麦粉をはたいて、
サラダオイルを多めに引いたフライパンでムニエルのように揚げ焼きにする。
カエル肉は水分が多いようで、ときに油がバチバチはじけるので注意したい。
火が通ると肢がまっすぐに伸びるが、油断せずに芯までじっくりと火を通す。
一旦皿にとり、フライパンの油を捨てて、たっぷりのバターを溶かす。
ここにおろしニンニクとパセリ……を切らしていたので
これでいいや。
ネギを入れて混ぜる。
ここに先ほどの肢を入れて、バターをよく絡める。
これで完成。
いただきマース
…(≧~≦*)
うんまァーい!!
カエル肉は鶏肉っぽいと良く表現されるが、太ももの肉はどちらかというとフグや貝柱のような海産物に近い。
これは水っぽさのせいでもあるが、かといって味が薄いわけではなく、噛むごとにジューシーなエキスが染みだしてきてとても美味しい。
ガーリックバターとの相性もバツグンだ。
ふくらはぎは完全に鶏の味で、ここだけじっくり揚げて出されたら鳥のチューリップと間違えてしまうかもしれない。
オタマジャクシもそうだったけど、カエルは部位によって食感が変わるのが面白いなぁと思う。
フレンチでは珍しい、ナイフとフォークでなく手を使ってむしゃむしゃと食べる料理だ。
良く揚げることで肢先の腱と爪のところも美味しく食べられるようになるので、豪快にバリバリと食べるのがオススメ。
味:★★★★★
価格:★★★★☆
ワインはマコンでなくてもいいけど、まあカエルがいかに高級ったってモンラッシェと合わせるわけにもいかねぇでしょうw
アリゴテでなければなんでもいいと思うな。
よくわからん、という方は、とりあえずお店で「樽が効いて果実味の強い白ワインくーださい」と言えば教えてくれるはず。
間違っても正直に「カエルに合うワイン下さい」なんて言っては……いや、フレンチに精通した店員ならわかるはずだな。。
お店のレベルを測るのにいい質問だったりして??
コメント
英仏海峡トンネルが開通したばかりの頃の英国にて、
「外来種の侵入が問題になると思われますが、もっとも危惧される生物はなんでしょうか?」
「カエルw」
wwwこれだからイギリス人は……!
もし彼らが食い詰めてカエルを食べようとしたら、湯引きとか薄皮剥きとか一切せずただひたすらぶつ切りにして茹でて冷やして固めて、チリビネガーをドバドバかけて食べるでしょうね。
マコンいいですね
近所のワイン屋さんのソムリエ一押しです
それにまさかのカエルを合わせるとは
お手頃価格とはいえ日本人向けで飲みやすいので
まりあーじゅ?としては良いのでしょうね
食べてみたいけどなかなかハードルが高いですね