キノコ狩りストにとって、サクラ前線よりも気になるのがアミガサタケ前線。
Twitterやブログで全国の同志が上げる「アミガサタケ出た!」の知らせに心を躍らせる時期である。
キノコシーズンのトップを飾るアミガサタケは、春告茸とも呼ばれる早春のキノコだ。
その中でも特に発生の早いトガリアミガサタケは、僕の住む神奈川では毎年3月下旬に律儀に顔を出してくれる。
この「毎年同じ時期・同じところに顔を出す」というのが天然キノコの大きな魅力で、キノコ狩りストたちはまるで織姫と出会えた彦星のように、年に1回の出会いを喜ぶことができるのだ。
まあ、この彦星、秋には別の織姫がいるってのが何ともいやらしいのだが。。
今年はアミガサタケ当たり年?
というわけで先週末、ホームグラウンドである神奈川県中部の某公園に行ってきた。
アミガサタケの中で最も見つけやすいのは「黒」「ブラックモレル」などとも呼ばれるトガリアミガサタケだ。
キノコ狩りの基本は「発生実績」と「樹木」を追っかけることで、トガリに関しては特にそれが当てはまる。
谷筋や河川敷など、周囲より多少低くなっている土地の、地面がふかふかしたところに生えたイチョウの大木の周辺をくまなく見ていけば、かなりの確率で見つけることができるだろう。
発生のタイミングを見極めるのがやや難しいかな…発生後はすぐに痛んでしまうキノコなので、ちょうど食べごろの織姫子実体と確実に出会うためには、毎年通ってデータを蓄積していくしかないだろう。
万事うまくいくとこの通り。
1ヶ所で大型ビニール袋にいっぱいは採ることができる。
乾燥保存ができるため、ついついたくさん採ってしまうが、ほどほどにして後続の人々に残してあげる心の余裕も大切だ。
アミガサタケは玉手箱(日本昔話的な意味で)
さて、採ってきたアミガサタケはすぐに鮮度が落ちるので、迅速に下処理をする必要がある。
特に、大きく成長したものは要注意だ。
アミガサタケは中が空洞になっており、その空間では食物連鎖が繰り広げられている。
つまり、虫、もとい蟲がたくさん生息しているのだ。
一番多いのがダンゴムシ、ワラジムシやナメクジ、カタツムリの類だ。
彼らはキノコを常食しており、アミガサタケが顔を出すとすぐに取りつき、内から外から齧って穴を開けてしまう。
彼らにとってはまさにヘンゼルとグレーテルのお菓子の家状態だ。
しかし、お菓子の家には必ず悪い魔女も居る。
アミガサタケにおいてはこれらの蟲を狙って、
ハサミムシ
がその穴から侵入し、内部で待機していることがしばしばある。
今回も結構大きなムカデがいた。
アミガサタケの下処理をするときは、熱湯を用意しておき、虫を見つけ次第その中に落として殺すようにすると良いかもしれない。
また、アミガサタケを入れた袋の口を縛らずに放置しておくと、彼らが這い出てきて台所でこんにちはすることがあるので気を付けたい。
ムカデが脱走するとみんなのおうちがバイオハザード状態になるよ。
KGBとムカデは食べないの?というツッコミは無しでお願いします。
石突きをとり、軽く水洗いしてチブルヘッド部に詰まった砂を落とせば下ごしらえは完了。
生のままでも、一度乾燥しても調理することができる。
アミガサタケは本当に和食と合わないのか?
アミガサタケは日本よりもヨーロッパ・アメリカで珍重されていることは広く知られている。
フランス語でモリーユ、イタリアやアメリカではモレルと呼ばれ、高級食材の一つだ。
当地では春のアミガサタケ狩りは非常にポピュラーな趣味で、制限時間内に採取できたアミガサタケの量を競う大会なんかも開催されているという。
翻って日本ではというと、そもそもこのキノコの存在が一般人には全くと言っていいほど知られていない。
春に発生すること、見た目がちょっとアレなこと、そしてそれらの理由のために市販されないことがその原因と思われるが、それに加えて良く言われるのが「和食に使えない」と言うものだ。
僕も過去の記事でそのような旨のことを書いていた。
確かに乳脂肪系のフレーバーとは抜群に合うのだが、良く考えたら僕自身試したことが無いのに「合わない」なんて決めつけてしまうのはちょっと乱暴だ。
改めて、試してみることにした。
新鮮で身が締まったものを選び、
二つ割りにして中もよく洗い、水から煮る。
アミガサタケには「ジロミトリン」という成分がわずかに含まれており、生食すると中毒を起こすことが知られている。
ジロミトリンは加水分解によってモノメチルヒドラジンという猛毒(ロケットの燃料でもある)になるのだが、87.5℃で揮発するらしいので、換気を全開にしつつぐつぐつと煮て、できる限り追い出す。
たぶんだけど、この毒成分のせいで「さっと煮る」とか「炊き込む」といった調理がやりづらいのが和食に使われにくい原因でないかなー。
煮詰めていくと、濃厚な出汁の香りと色味が出てきた。
香りはシイタケ出汁に近いが、そこに牛肉の煮汁が混ざったような独特な風味がある。
うすくちしょうゆとみりんを少々足して、吸い物にしてみた。
良い色だ…
(≧~≦)…
濃い!!
何だこの濃さは…シイタケよりもシメジよりも上かもしれない。
まさにうま味の塊。
うま味の方向性はシイタケと近いが、より完成されているという印象だ。
醤油、みりんとも相性はばっちりと言える。
また、キノコ本体の味もなかなか悪くない。
面白いのは、バターソテーやキッシュにしたときは、チブルヘッド部よりも柄の方がコリコリとして美味いのだが、すまし汁にするとチブルヘッドのくにゃくにゃとした食感が美味しくなり、逆に柄は少ししわく感じられた。
和食にも使えました、ごめんなさい
そう言えば以前、著名な板前である村田吉弘氏が、欧米に真の和食を広めるにあたって課題となる「和風出汁」の作成に必要なシイタケ・昆布・鰹節の代用に、現地で用意できるアミガサタケ・ドライトマト・鶏胸肉を用いていた。
冷静に考えれば、うま味成分が同じなら同様に利用できるのは当たり前である。
加熱によって歯ごたえが無くなってしまうので、キノコそのものを味わう煮物などにはちょっと弱いかもしれないが、何にしてもこのうま味は和食にとっても捨てがたい。
一度しっかりと煮て毒成分を揮発させ、うま味をしっかり取りだすことで、炊き込みや煮物といった和食に用いることは十分可能ではないかと言う気がする。
今後も積極的に試してみたい。
コメント
こんにちは 初めまして
春になると思いだすのが、庭に、生えていたアミガサタケの事です
何年も庭に生えていて、気持ち悪かったので、
触らないようにして処分していました
きのこ図鑑を見たら、生食には不向きだが、火を通すと美味である
フランスでは、普通に食べられている とありました
図鑑のあちこち見ても、似たようなもので毒キノコは無かったので
きのこ好きの私としては、
100%の確率で、大丈夫と確信し、炒めて食べました
今、読んだブログのようにそんなにしっかりと火を通すなんてしなかったので
もしかすると、危なかった?
マイタケのような食感で美味しかったです
身体も何事も無く大丈夫でした
のちに、キノコ狩りに行った時に、その事を話したら、
図鑑には載っていないきのこはたくさんあるのだから、
危ないから食べてはいけない、と言われました
その時、そのキノコについてのコメントは有りませんでしたので、
その方も知らなかったのかもしれません
今迄、あちこちでその話をしましたが、誰もそのキノコの事は知りません
何で、フランスで食べられているものが、あなたの家に生えているの? ですって。
一度食べただけで、そのきのこは、出て来なくなりました
ここに生えると危ない! ときのこが思っちゃたのか?
ようやく、今日、その訳が解りました
数年前、庭の桜の木が枯れてしまったためと思われます
面白いブログを見つけて、嬉しいです
ただ、きのこが好きなだけですが、
仲間が出来た気がします
今後とも宜しくお願い致します