先日のおきゅうともどき作りで失敗して以降、リベンジの機会をずっと探していた。
そして先週末、ついに僕はとある海藻を手に入れたのだ。
最終兵器イボツノマタ
西湘でのメバル釣りの前に、潮の大きく引いた磯でいつものように海藻探検をしていると、波しぶきのかかる最前線の岩肌に、黒いひらひらが群生しているのを見つけた。
海中に転落しないように注意しながら、特に大きな個体だけを集めて観察してみた。
長いものでは20cmほどあり、Y字状になった葉の全体にぶつぶつがあって、一見するとなにかの病気で枯れてしまった海藻のようだ。
図鑑で調べてみると、これはイボツノマタという紅藻の一種だということが判った。
表面のぶつぶつは胞子嚢で、これが目立つから「イボ」ツノマタなのだろう。
手触りはつるつるしていて、ぱりぱりした膜質でしっかりしている。
「海草」と「新海草」
紅藻の仲間には寒天のように凝固するものがいくつもあるのだが、その中でもツノマタ類はその凝固力の高さから、全国各地で食材として用いられてきた。
凝固成分はカラギーナンで、いわゆる寒天とは少し違う。
最近、寒天やゼラチンの代替品として人気の凝固剤「アガー」の原料となるものだ。
僕の住む神奈川では、三浦の一部でコトジツノマタの漁業権を認めている地区がある。
だが、もっとも利用されているのはおそらく、千葉県の九十九里から調子にかけての沿岸だろう。
調子の地場のスーパーや魚屋などに入ると、「海草」(ひらがなで「かいそう」のときもある)という名の羊羹のようなものが売られているのが見られる。
なんともざっくりした名前だが、これはツノマタ類の海藻を煮溶かして作った寒天のようなものらしい。
おきゅうとやいごねりとは材料こそ違うものの、ほぼ同じように作られたものだと考えて良さそうだ。
さてこの「海草」に対して、「新海草」なるものが最近売られているらしい。
ウェブサイトで見たところ、外見は「海草」と変わらないようだが、実はこれこそが、今回採取したイボツノマタで造られたものなのだという。
別の海藻で作ったから「新海草」とはこれまたザッパな名前だ…
一度購入してみたいと思ったが、せっかく今回原料のイボツノマタが手に入ったので、レシピを調べて自作してみることにした。
イボツノマタで「新海草」を作る
まずイボツノマタをよく洗い、ざっくりと刻んで鍋に入れる。
ひたひたになる程度のお湯を注ぎ、強火で5分間煮る。
この時点で一枚食べてみると、ヤゲン軟骨のようなぱりぱり感と、溶けかけのねっとりとした海藻の風味がありなかなか美味しい。
その後弱火にし、20分以上かけて良く練りながらことこと煮る。
シリコンのヘラで鍋肌をよくこそぎながら、空気を含ませるようにして、焦げ付かないようにじっくりと練って行く。
羊羹を作ったことがある人ならこのあたりのコツがつかみやすいかもしれない。
寒天やアガーはゼラチンと比べ凝固力が強く安定的だが、最初に煮溶かす時が少し厄介だ。
火を止めて冷ましながら練りつづけ、粘りが出てきたら型に注いで、冷蔵庫で一晩固める。
できた…かと思いきや
つついてみると以外と脆く、簡単に崩れてしまう。
最初の刻み方が荒すぎたのかもしれない。
仕方ないのでもう一度刻み直し、
鍋で練り直すところから再度挑戦。
細かくしたことでカラギーナンが融けだし、糊のようなもったり感が出てきた。
この時点でまた味見すると、海苔風味のおかゆといった感じで悪くない。
醤油をかけて食べてみると…
…(・~・)
うん、海草だね。確かに海草だ。
煮溶かして固めただけなので、海藻そのものの風味と味がする。
ただ、イボツノマタの風味や味がもともといいので、この「新海草」も素直においしい。
予想と違って海藻体の破片はそのまま形を保っており、ややもさもさするが歯ごたえとアクセントがあって、これはこれで捨てがたい。
おきゅうとと異なり調理時に酢を入れないので、酸味がない点も受け入れやすい。
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
醤油以外にトウガラシをかけたり、ポン酢をかけても美味しいだろう。
千葉県でツノマタ類を採取すると漁業権の心配があるかもしれないが、神奈川ではほとんど利用されてないと思われるので、今後も継続的に採取していろいろ試してみたいと思っている。
ツノマタは胞子体と配偶体に気をつけろ?
さて、イボツノマタはスギノリ目に所属する紅藻なのだが、Wikipediaのカラギーナンの項目を見ていると気になる記述があった。
-カラギーナンには次の3つのタイプがある。
κ(カッパ) – 硬く強いゲルを作る。Kappaphycus cottonii (オオキリンサイ属)から得られる。
ι(イオタ) – 軟らかいゲルを作る。Eucheuma spinosum (キリンサイ属)から得られる。
λ(ラムダ) – 水ではゲル化しないが、タンパク質と混ぜたときに軟らかいゲルを作り、乳製品の安定剤に使われる。よく使われる原料は南欧産のGigartina (スギノリ属)である。
多くの紅藻は世代交代の各段階で異なるタイプのカラギーナンを作る。たとえば Gigartina 属は配偶体世代では主にκカラギーナンを作るが、胞子体世代ではλカラギーナンを作る。-(Wikipedia「カラギーナン」より引用)
今回採取したイボツノマタには胞子嚢があったので胞子体で間違いないと思うのだが、そうすると凝固成分はλカラギーナンが主体となっていたと考えられる。
予想と比べて凝固力が弱かったのも、水だけで練ったためにλカラギーナンがうまくゲル化しなかったためなのか…?
つーことは牛乳とかチーズとかで煮溶かしたほうが良かったのかな?
面白いので今度試してみよう。
コメント