最近、趣味を聞かれたときに「海藻を採ることです」と言うことに躊躇がなくなってきたのだが、やはりキノコ狩り等と比べると意外な趣味に思われるようで「え?なんで海藻?ワカメとか?」なんて聞き返されることも多い。
ワカメやヒジキは漁業権があるので素人は採っちゃいけないんですよ、というとますます不思議そうな顔で「じゃあ、何が楽しいの?」と言われる。
ワカメやヒジキなど採らなくとも、漁業権の設定が無くとも美味しい海藻などいっぱいあるのだが、そのあたりを説明するのが面倒くさいな…と思った時、僕はこう答えて相手をけむに巻くことにしている。
「煮ると溶けることです!」
あこがれのコトジツノマタ
なぜ「煮溶かす」という行為にハマったのかというと「なんだか愉快だから」という理由しか思いつかない。
かつて子供のころ、母親が牛乳やらサイダーやらトマトやら、様々なものを寒天で固めては食べているのを見ていたのが影響しているかもしれない。(トマト寒天はサイコーに美味しくなかったけれども)
海藻類のなかでも特に紅藻類には数多くの「煮ると溶ける系」海藻があり、日本の各地で利用されている。
代表的なのは2種あり、一つはマクサ、オニクサなどのテングサ目、もう一つはツノマタ、イバラノリなどのスギノリ目である。
テングサ目は寒天、スギノリ目は海草こんにゃくやおきゅうと、またゼラチンや寒天につぐ第3の凝固剤「アガー」の原料としてよく知られている。
このうちテングサ目は(このブログでも何度も言っている通り)漁業権が厳しく設定されているので基本採取してはならない。
そもそも水深のあるところに生息するので、採取も困難である。
海岸に多く打ち寄せられるが、それを拾うのも罰せられる可能性があるらしいのでやめたほうが無難だ。
スギノリ目は潮間帯に生え、また漁業権を設定している地区も少ないので採取に向いているが、それでも各都道府県のHPで確認することが必須となる。
このサイトではこれまでツノムカデ、イボツノマタを煮溶かして固めてきたが、どちらもスギノリ目の海藻だ。
さて、先日のせつな氏との海藻探検の際に、潮間帯下部の岩に大量に生えていたスギノリ目の海藻を見て、つい歓声を上げてしまった。
コトジツノマタである。
細長く伸びた海藻体の先っぽが2叉になっており、弾力に富んだ光沢のある見た目ですぐにそれと分かった。
コトジツノマタは千葉県銚子の名物料理「海草」の原料で、以前採取したイボツノマタは本来はその代用品なのである。(イボツノマタで作ったものは「新海草」とよばれる)
インターネットでも様々な人が「海草」のレシピを公開しており、誰もが簡単に煮溶かせる海藻として、一度お目にかかってみたかったのだ。
大量に群生していたうち、胞子嚢の発達していない個体を選んで採取してきた。
コトジツノマタを煮溶かしてみる
持ち帰って改めて観察してみると、博多ラーメンに入っている千切りのアラゲキクラゲによく似ている。
表面の見た目や断面の光沢感、ぷりぷりとした触り心地に至るまでそっくりだ。
キクラゲが手に入らなかったときにこれで代用できないだろうか。
そんなことを思いつつ、水に入れて火にかけてみると
あっという間に緑色になり、
そしてスライムのように溶けてしまった。
豚骨スープに入れようものなら、白湯と緑スライムがまじりあってとんでもないことになってしまうだろう。
イボツノマタと比べると溶解が早く、またよりなめらかで加工しやすい。
へらで練りながら煮詰めていくとやがて滑らかになり、固まる前の抹茶羊羹のようになったので、そこで火からおろし、タッパーに注いで固めた。
この時点で食べてみると…
酸味のないおきゅうとのような感じで、磯の香りが強く、食べにくいわけではないが人を選びそうな味わいだと思った。
「ぶど」を作ってみよう
このままでも、醤油と鰹節があればいっぱしのおかずにはなるだろう(それが「海草」なわけだけど)が、それだと前回のイボツノマタと変わり映えが無く面白くないので、もう少しいろいろレシピを調べてみることにした。
そこで見つけたのが、八丈島の郷土料理「ぶど」である。
これは煮溶かした海藻に下味をつけて、ほぐした魚などの具を寄せ固めたもので、島では昔から好まれ、宴会のメニューとして知られてきたものだという。
本来はスギノリ目のカギイバラノリを使うらしいが、コトジツノマタでも似たようなものができるだろうと思い挑戦してみることにした。
コトジツノマタで作る「ぶど風海草」レシピ
1.トビウオを焼いてほぐす
3月の声を聴くと、市場にトビウオが入荷してくる。
40㎝を優に超える大きさと特徴的な角ばった体からハマトビウオだと思われるが、これを焼いてほぐしたものが、ぶどに入れる具のうち最もポピュラーなものらしい。
さっそく購入してきた。
巨大なトビウオ2匹で600円と言うのは高いのか安いのかいまいちわからないが、せっかくなので1匹は刺身で、もう一匹をぶどに利用してみよう。
普通に3枚におろし、よく焼いて身をほぐす。
小骨が多いので気になる人は取り去るが、トビウオの血合い骨は細いのでそんなに神経質になる必要はないと思う。
そう言えば昔、TVチャンピオンで当時は学生だったさかなクンが、つみれ汁の中に沈んでた小骨で材料がトビウオだと当てたことがあった。
あの時は素直にすごいと思ったが、正直さかなクンとしても「イワシか、トビウオか」迷ったんじゃないだろうか。
つなぎとか薬味とか入っていればなおのこと、区別はつかないと思うのだが…
コトジツノマタをもう一度煮溶かす
寒天のように「フリーズドライ加工」ができないかなーと思って冷凍庫にしまっておいたコトジツノマタを、
鍋に入れて再度煮溶かしながらよく煮る。
一度凍らせたからか、よりなめらかに溶かせたような気がする。
味をつけて、卵の黄身を流す
味付けは八丈島でも、家庭ごとに違うらしい。
醤油や塩、味噌などが一般的なようだが、個人的な好みでいいとのことなので迷わず白だし(濃縮)を投入。
そばつゆとかもいいかも。みりんで甘くしても面白い…?
その後、こちらは好みなのだが、卵の黄身を流しいれて菜箸でかーるく撹拌すると、きれいなマーブル模様ができる様なので挑戦してみた。
型に流し入れ、冷やして固める
タッパーに先ほどほぐしたトビウオの身を入れ、上から溶かしたコトジツノマタを流し入れて、粗熱を撮ったら冷蔵庫に入れて冷やし、しっかりと固める。
固まったらタッパーから取り出し、切り分けて
完成!!
さっそく食べてみると…
(゜~゜)…
…
美味い!
この手の海藻料理は、できたものにしょうゆや三杯酢などをかけて食べるよりも、下味をつけておくほうが風味が柔らかく、食べやすくなるようだ。
磯の香りや、海草独特のヨード臭は白だしと合わさって心地よい個性となり、そこにトビウオの青魚の風味が加わって素晴らしい完成度になっている。
海藻がよほど苦手でなければ、誰でも美味しく食べられると思う。
島では子供向けに缶詰のコーンなどを入れることもあるようだ。
悪いけどこれ、おきゅうとの10倍くらい美味いよ。おきゅうと好きだけどさ…
味:★★★★☆
価格:★★★☆☆
最近胃腸がどんどん弱ってて、今年30になるとは思えないほど料理がオッサン臭くなっているのだが、今後日本酒のあてはこのぶどで良いような気がしてきた。
味噌で味付けしたものだともっと風味が強そうだから、いも焼酎とか、青が島の青酎なんかにも合うかもしれない。
いつか自分でカギイバラノリを採取して、コトジツノマタバージョンと比較してみたい。
八丈島に行って食べてみるのもいいけど、ちょっと遠いので…いつか行ってみたいけれども。。
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