前回の続き
さて、干しあがったウツボ革なのだが、裏面がこのようになっている。
必要以上にてかっているように見えないだろうか。
これはどうやら皮下組織か、皮のゼラチン質が溶け出したものらしく、とても生臭いうえ、手や他のものにつくとなかなか取れない。
いわゆる膠というものなのだろう。
膠は古代から接着剤として珍重され、その強固な接着作用で知られているという。これをはがすにはただ一つ、加熱しかない。
しかし熱と水は革製品にとって大敵。
悩んだが、膠はがしや革用洗剤が見つからなかった(起毛革用はあったが)ので、開き直って全力で洗うことにした。
まず、ぎりぎり触れられるほどの厚さの湯を沸かし、裏面に回しかける。
そして、油汚れに効く食器用洗剤を使い、スポンジでひたすら磨く。
ちなみに、植物性タンニンで鞣した方はこの膠成分がほとんど出ず、干してもやわらかいままであった。
生臭さは若干あるので、あわせて洗剤で洗った。
ウツボ革、完…成?
すすいだ後はしっかりと水けをふきとり、保護するために油を塗り込む。
実際は革製品用クリームを利用するべきなのだろうが、それだと食べられないのであえてオリーブオイルで代用してみた。
オリーブオイルには保湿成分が含まれていると聞くし、何よりいい香りがする。
乾燥したら再び油を塗り込む。
スポンジ洗いの際に破れてしまった部分はとても残念なのだが、色はきれいなままなのでこれで良しとする。
これを3回ほど繰り返した。
これで柔らかくなる…と思っていたのだが
パッキパキやぞ。
乾燥後、折り曲げたりしならせたりして皮として使いやすくするのだが、うまくいかない。
無理やりぐいぐい折り曲げていたのだが
折れたというより、割れて砕けてしまった。
やはりスポンジ洗いがいけなかったのか、それともなめしがうまくいっていなかったのだろうか。
プラスチックのように固くなった革には油脂もうまくなじんでおらず、革としてつかえそうになかった。
大失敗…
凹みつつ、もう一つの方(お茶でなめした方)を確認してみると
全く問題なし。
色は干している最中にかなり黒ずんでしまったが、懸念された匂いもなく、油脂もなじみ、柔らかくて適度な厚さがありとても加工しやすくなっていた。
表面の感じがワニ革やヘビ革みたいで、裏面も市販の革みたくなっているのがとても嬉しい。
こちらは成功と言っていいだろう。
「ミョウバンなめしの方がプロっぽいし、大きい皮はミョウバンでなめして端切れを茶でなめそう」と思ってしまった自分が悔やまれる。
あらためて調べてみると、プロの職人やメーカーが使う手段も、表地がクロムなめし、裏や底地が植物性タンニンなめし、といった感じで使い分けるのが主流らしい。
ミョウバンなめしの方法が間違っていたのか、このウツボ皮には合わないやり方だったのか、詳しいことは分からないが、次からは魚に関してはおとなしくお茶っ葉でなめそうと決意した。
毛皮などはミョウバンの方が良いらしいが。(お茶っ葉でやると緑に染まるしね…)
まあそれでも、人生で初めてなめし革を作れたので良しとしたい。
●ウツボの革細工もどきをつくる
せっかくの革なので、貼り付けて触感を楽しんでみる。
大きい皮がうまくなめせていたら、財布とかがま口を作ってヘビ革に対抗できたのだが…今回はあまりに小さいので、持ち運び用の手鏡の裏に、カットしたウツボ革を貼り付けていく。
断面や丈夫さは市販の革に引けを取らない。鋏を入れたときの質感もかなりしっかりしている。
カットし、貼り付けて完成。
…なんか海苔みたいだな。ケータイのカメラでは真っ黒に映ってしまうのがもどかしい。(デジカメは修理中)
実際はうっすらとまだら模様が見えるし、表面の凹凸も本革の風味を醸している。
匂いは少しあるが、それほど不快ではなく「ウツボ革の個性」とも言えるだろう。
食品と添加物だけしか使っていないので家庭でも簡単にできるし、子供にも安全に作ることができる。
ちょっと遅いけど、自由研究の題材にもよいかもしれない。
子供の工作レベルではあるが、個人的には大満足。
次回は腹側の鮮やかな革で、表側を綺麗に飾り付けてみたい。
●食べられる材料だけで作った革は食べられるのか?
さて、せっかく食べられる材料だけで作った革(洗剤で洗ったのが多少気になるが)せっかくなので少し食してみよう。
端っこを切り、
コンロであぶる。
脂がじわっと浸みだし、焼き魚の香ばしい香りがふわっと立ち上がる。
しゃけの皮だけを焼いて食べる時のような、幸せな予感が湧き上がる。
やはり、なめしても食品になりうるのだろうか。
実食。…
堅い!!
全くかみ切れる要素がない。というかちぎれない。
やっぱり皮じゃなくて革なんだな。
当たり前のこととはいえ、食べられるものだけで食品が日用品になるというのは新鮮な驚きがある。
小学生のころ、野菜や果物で紙を作って自由研究のレポートとしたが、それに通じるものがあった。
繰り返しになるが、自由研究の題材に悩むお子さん&お母さん、お勧めですよ!!
●まとめ
・ウツボはロープと金具で釣る
・なめしはお茶っ葉で。
・皮は革になると食べれない
・たぶん革を洗剤で洗ってはいけない。
当初、この記事のタイトルを「食べられる革を作って食べる」にしようと思っていたのだが、上記の通りなので断念したのだ。
もし食用にできたのなら、中世武士の芋がらロープ(普段は荷物を縛るのに使い、有事には陣笠で煮て食べた)と同じように、大量生産して非常食にできたのになぁ。
P.S.
ところでふと思ったのだが、「植物性タンニン」でなめすことが可能なのであれば、赤ワインとかナツグミなどでも大丈夫なのではないか?
例えば巨峰を食べた後、大量に出る皮や種をつぶし、水を加えてそれに皮を漬けたらなめすことができるのではないだろうか。
考えるほどに興味がわいてくる。いろいろ試してみるのも面白いな。なお、繰り返しになりますが自由研ky(以下略)
となると、またウツボを釣りにいかねばなるまいな。
コメント
ウツボ皮なめしの記事、大変興味深く拝読させていただきました。
ドイツでは第一次・第二次世界大戦後の物資不足の中、魚の革を製本に使っていたらしいです(それで興味を持って調べていたらたどり着いたわけです)。
このブログ(http://pressbengel.blogspot.jp/search?updated-max=2014-02-23T16:00:00-05:00&max-results=7)によれば今でも「ウナギ」「鮭」「マス」「鱈」「鯉」の皮から作った素材が出回っているとか。
ちなみになめし方は植物タンニンなめしのようです。
dimvusさま
コメントありがとうございます。
興味深い記事ですね。これはつまり、今でも製本に使っているということなんですね。。
なめした革で財布でも作ろうかと思っていたけど、ブックカバーってのも面白そうだなぁ…
ウツボレザー、グッときました。
もともとは「ヴァン・アンバーグというアメリカのレザーブランドが、カバやキリンなどあらゆるレザーをフルオーダーで財布を作ってくれ、中には魚のレザーによる財布もあるらしい」という噂を聞き、それで調べていてたどり着きました。
捕獲するだけでも流血しそうですが、ウツボって食べれるんですね。非常に興味深いです。
おもしろい記事をありがとうございました!!
初めまして、神奈川在住で、最近釣りを始めて、よくウツボが掛かるので食してみたら大変美味しく、これからはウツボ釣りに専念しようかと思うほどです。
せっかく釣れたのに捨ててしまうのは大変惜しく思い、食べ方を色々と調べていたら、貴兄のサイトに辿り着き、事細かく丁寧にウツボの皮の利用方まで教えているので敬服の限りです。
日本人の口に合うかはわかりませんが、ポルトガルではウツボの皮を剥いで塩をまぶして2~3日干してから、油で揚げると、ぱりぱりと大変香ばしく、私が長年住んでいたブラジルにプルルッカという豚の皮を油で揚げたものがあり、それに良く似た味なので、びっくりです。ぜひお試しあれ、です。
いろんなサイトを見ると、ウツボの美味しさが沢山書かれており、そのうちにウツボは捕獲されすぎて幻の魚になってしまうのではないかと心配です。
昔、戦さで負け、首を切り落とされた武士の頭を持ち上げようとしたら、カッ!と目を開き、噛みつこうとした、というような話がありましたが、ウツボを捌き、頭も尻尾も切り落とし、内臓も取り出し、胴体だけになったウツボがまだくねくねと動く生命力にはびっくりです!
頭を切り落とされてから、かなりの時間が経っているうつぼに噛みつかれたという話がありましたが、まんざら武士の話も作り話ではないような気がします。
問題は小骨が多いので、これからは骨の処理について勉強します。
以上、長く書きこみしてしましたが、ありがとうございました。
鞣すならピートモス使うと良さそうですね。
タンニン多くて安く大量購入できますから
ってことで明日からウツボ狩って参りますので釣れたら僕も鞣しますw